去る今月12日、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが、日本外国特派員協会にて記者会見を開きました。Jr.時代(2012~2016年)、事務所の社長だった故・ジャニー喜多川氏から「15~20回にわたり性的被害を受けた」と告発する内容です。
私は2020年秋までエンタメ系雑誌の記者だったので、ジャニーズ所属のタレントさんとお会いする機会は時々ありました。ジャニ担ではなかったため、深く掘り下げるような取材はしたことがないし、事務所とのパイプも持っていないけれど、それでも今回のことに関して「そうですか。まぁそういうことも無くはないでしょうね」という印象です。
私には好きな歌手や俳優さんが沢山いるのですが、その中にいわゆるアイドル的な活動、そしてアイドル的な売り方をしている人はゼロ。若い時分にも、アイドルにハマった経験というのが一度もありません。キラキラしてるな、ライブに行ったら楽しいのかもしれないなとは思うけれど、昔からそのパフォーマンス(特に“口パク”での歌)に疑問を抱いていたため、応援する対象にはなり得なかったんですよね。恐らくそういう影響もあって、私はアイドルやタレントに対して何の夢も見ていないのだと思います。
だから、記者の仕事を始めて様々な現実を知っても、失望したり驚いたりすることは少なかった。代表的なのは整形、豊胸、植毛等の見た目関連、そして枕営業…というか“枕強要”等の性関連。
見た目については会えば一目瞭然だけれど、性については現場を押さえない限り虚実は分かりません。例えば「あの人は枕してるらしい」「誰々に手を付けられちゃったっぽい」との噂を聞いたとて、事実か否か確かめようがないし、別段確かめたいとも思わない。興味がない。
ただ、16年間業界の片隅に身を置いた者として言えるのは、「物凄い数の“エロオヤジ”達が生息している世界だ」ということ。
事務所であれマスコミであれ、組織内で絶大な権力を握っているのは大抵男性です。その中にあって、地位や立場を恥ずかしげもなく利用…いえ悪用し、“いろんなもの”を手に入れようとする輩は一定数いる。それはこの目で実際見てきたから断言できます。もちろん、真摯に仕事をしている方のほうが全然多いけれど、そうでない人間もゴロゴロいる。
さらに言えば、逆のことをする人達も存在します。つまり、自分を売り込むために“色”や“春”を武器として使う若者です。男女問わずいますし、私も副編集長という肩書きを得て以降、そういう交渉を持ち掛けられることは何度かありました。その度に「『ここまでしてメディアに出たい、売れたい』という気持ちは理解できなくもないが、努力する方向が間違っていると思う」と拒否したけれど、「これ、『じゃあギブ&テイクということで』って受け入れちゃう媒体もあるだろうな」と感じました。
露出が増えたからといって、ゴリ押しされたからといって、必ずしも売れるとは限らない──。それは承知の上で、「全く露出がないよりはいい。どうにかしてチャンスを掴みたい」と考えた末の“覚悟の行動”なのでしょう。よって、双方が納得しているなら別にいいというか、「どうぞご勝手に」と思っていた部分もあります。この“我関せず”の姿勢にも罪があると言われれば、或いはそうなのかもしれません。
余談ですけれども、記者となった2004年当時、早い段階で上司より「業界心得」的なものを教わりました。「この世界は思いの外、誘惑やトラップが多い。特にカネとオンナ…いや君の場合はカネとオトコに気を付けろ」。
具体的には、「1万円以下の心付けやお車代は受け取ってもいいが、それ以上はきっぱり断れ。“袖の下”は知らない間に何十万と持たされる巧妙なケースもあるから、とりわけ宴席では油断するな」「ゴルフ接待、クラブ接待、料亭接待までは受けてOK。御座敷接待、性接待は絶対にNG」という感じでした。
上司は性接待ではなく「色仕掛け」という表現を使っていましたが、意味合いは大体同じです。私はそれよりも「“知らない間に持たされる袖の下”って何⁉︎ めちゃくちゃ怖いんですけどー!」と感じ、先輩方に根掘り葉掘り尋ねて回った記憶があります。まぁ、各社の接待交際費が潤沢だった時代の話なので、現在ではあまり意味を成さない「業界心得」でしょうけどね。
ちなみに。長年ジャニーズファンをやっている友人に、今回の件について訊いたところ、「『何を今さら』って感じかな~。何十年も前から言われてることだし、裁判(2004年)でもクロってはっきり出てる。もちろん“あってはならないこと”っていうのは分かってるけど、ジャニーズ内ではそれが日常というか暗黙のルールなわけでしょ? だから私もそういうもんだと思ってる」と返ってきました。これは少し意外だったので、「…へぇ、そうなんだ」と一瞬間が空いてしまったっけ。
ジャニーズファンが全員こういう認識だとは思いませんが、ある程度把握している人達も多いんだろうなと予想します。マスコミも現状、NHKでチラッと報道しただけで、ニュース番組でも新聞でもほぼ扱っていません(*4月末現在)。忖度全開、臭い物に蓋、でございます。
加えてもう一つ言えるのは、“権力者同士における性の搾取は起きにくい”という点です。犠牲になるのは、いつだって力のない人、声を上げられない人、或いは声を上げても消されてしまう人──。
周知の通り、世界は決して平等ではありません。支配する者とされる者、搾取する者とされる者に分かれるし、支配されていること、搾取されていることそのものに気付いていなかったり、気付いていても知らないフリをする場合だってある。勇気を持ってその場で戦ったり、後々告発したりできる人もいれば、正面から向き合うと余計に苦しい思いをするから、一刻も早く忘れたい・過去を葬りたい・触れてほしくない人もいます。声を上げる自由があるのと同様、“声を上げない自由”もあると思う。
カウアンさんの行動は尊重されるべきものだと思うけれど、他の被害者について勝手に言及するのは違うというか、「それは全くの別問題だ」と感じています。みんながみんな、告発したいと思っているわけではないだろうに、自分以外のことを許可なく口にするのは明らかなルール違反。公にすることによって一層傷付いたり、心がえぐられたりする可能性があることは、当事者なら尚更想像できると思うのですが…。
芸能界に限らず、どの業界でもセクハラやパワハラ、性差別等はあります。悲しい話ですが、それらが全て無くなる日が、少なくとも私が生きている間に訪れるとは思えない。だからといって容認するわけでも我慢するわけでもないけれど、事態が急に好転するとは考えにくく、変わるとしても“少しずつ”。実際、一昔前は何ら問題なかった「今日も可愛いね」「綺麗だね」等は今言ったらセクハラでしょう。そういう一つひとつのことが、“ゆっくりだけれど確実に変わってきている証拠”だと思います。
もっとも、私がいた業界ではそんなのセクハラに入らないし、こちらも「あざま〜す(ありがとうございま〜すの省エネ版・笑)」とか適当に答えて終わり。挨拶みたいなものというか、「こんにちは」とか「お疲れさまです」とかと同義語くらいに思っていました。そもそも誰に言われようと不快な言葉じゃないですしね。あ、それだとつまり、女性から男性に言う「カッコイイ」「男前」とかもセクハラになるってことですよね? “内面の良いところ”は見つけるのも褒め称えるのも時間が掛かるから、単に手っ取り早く外見を褒めているだけなのになぁ。
何か、どんどん面倒くさい方向へと舵を切っているような気もします。“言葉狩り”にばかり躍起になって、肝心の“セクハラの根本”は置いてけぼり。それって意味あるんでしょうかねぇ…。