女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

本気じゃない恋〈後編〉

 

 

帰国後に待ち合わせたのは、外苑前駅。彼行きつけのカフェへ向かう道すがら、さも当然のように指を絡ませ手をつないできます。いやはや、積極的。カフェに着いてから話すつもりだったけれど、それでは遅いかもしれないと思い、道中で切り出しました。

 

「ちょっと訊きたいんだけど、私たちって付き合うの?」

「うん。っていうか、もう付き合ってるよね」

「そうなの⁉︎ あのさ、私今32歳なんだけど」

「知ってる」

「いや、あなた25歳だし、今就活中だよね?」

「そうだよ。だから?」

「いやいや、年も離れてるし、それに今恋愛してる場合じゃ…」

「離れてるって7コじゃん、同じようなもんでしょ。あと就活中とか関係ないよ。好きなら付き合うでしょ」

「私のこと好きなの?」

「うん。え、僕のこと好きじゃないの?」

「好きっていうか、あなたのことほとんど知らないし…」

「これから知っていけばいいじゃん。あと、本当にイヤだったらこの手、離すんじゃない?」

「それはまぁそうだけど」

「じゃあ好きってことだね♡」

 

どうでしょう、この見事な丸め込まれっぷり(笑)。人としての魅力は強く感じていながらも、“異性として好きなのか”はよく分からないまま交際が始まりました。

 

彼と付き合っている間(約5ヶ月)に、初めての経験をたくさんしました。

留学先から帰国したばかりということもあり、純日本人なのに外国人と付き合っているような感覚(会話にもちょいちょい英語が挟まる)。「大好き」「愛してる」「カワイイね」「キレイだよ」を日常的に言うし、キスもそこらじゅうでする。路上だろうと電車だろうとカフェだろうとお構いなしです。荷物も全部持ってくれて、何でもないことで褒めてくれて、会うたび感謝の気持ちを伝えてくれる。まさにお姫様のような扱いです。最初は「バッグなんて自分で持てるよ」と拒否していたのですが、「僕が持ちたいの。だってそのための筋肉なんだから~♪」と言われて吹き出してしまい、それ以降、彼にバッグを預けることに抵抗がなくなりました。

 

中でも一番刺激的だった初体験は、夜の生活です。当初、彼がちょっと軽そうなタイプに見えていたので、警戒してなかなか体を許しませんでした。後々「あの“おあずけ感”がたまらなく良かったぁ♡」と嬉しそうに告げられた時、「別にあなたの性癖を考慮してのことではない」と冷静に言ったら、さらに喜んでいたっけ。

 

極限まで身体を鍛えている人にはままあることかもしれませんが、彼はかなりのMでした。

脚フェチなのは知っていたけれど、Eさんは生足よりも“網タイツを履いた足”が好み。私は普段ストッキングさえ身に着けないのですが、ある晩彼がニーハイ丈の網タイツを持って登場。「その綺麗な足が、これを履いたらもっともっと綺麗になると思うんだ」と手渡され、「コスプレ的なことか~。まぁいいでしょう」と安易に履いてしまったんですよね。その瞬間、彼の表情が恍惚としたそれへと変わり、立っている私の横にひざまずいて脚全体に頬をスリスリ。「やっぱり似合う、最高に綺麗」と言いながらずーっと撫でている。その後、「椅子に座って脚を組んで、僕を見下ろしてほしい」とか「ここ(秘部)を踏みつけてほしい」とか、徐々にヘビーなプレイを望まれるようになりました。前からMっぽさを感じてはいたけれど、ここまでのMだとは予想外。そうそう、“射精管理”なるものが存在することも、彼と付き合って初めて知りました。

 

もう一つ予想外だったのは、“Sとしてのいろいろなこと”を要求され続けても、別段興奮しないけれどイヤでもないという事実。私自身はニュートラルですが、「へぇ、こういうことが気持ちいいんだ」とか「次はもっとこうしてみようかな」とか探求すること自体楽しかったし、単純に彼が喜んでくれるから私も嬉しかった。表現が難しいですが、家でも外出先でも“大好きな飼い主にまとわりついて全然離れない犬”くらい延々くっついてくるので、その姿も可愛らしかったですね。

 

ただ、気掛かりなこともありました。1つ目は「ちゃんと就活しているのか?」という点、2つ目はものすごく嫉妬深い点。

彼は大学はおろか留学費用も親に全額出してもらい、25歳まで養ってもらっておきながら、切羽詰まって職を探しているようには見えなかったのです。私と会っていない日も、ルームメイトとパーティーをしたり、ジムで一日中トレーニングしていたりする。そして私の行動やスケジュールを逐一知りたがる。仕事柄、社外で男性と打ち合わせや食事をする機会も多いのですが、それも「君が行かなきゃいけないの? どこの店?」などと言う。当然、男友達と遊びに行くなんて以ての外です。彼は「結婚したら子供は何人欲しい?」と訊いたりしてきましたが、真面目に答える気にもならず「まずは就職が先でしょ」とたしなめる日々。本人に悪気はないのでしょうが、まだまだ“その日暮らし”をしていたいんだろうなぁということが、深い仲になればなるほど分かりました。

 

そして、唐突にやって来た別れの日。彼と部屋でイチャついていた時、私の携帯にメールの受信音が。無視してイチャつき続けたのですが、途中で「見ないの?」と彼。「後でいいよ」と答えると、「僕の前だと見れないの?」と言われたので、ムッとして「あなたとの時間を大事にしてるだけでしょ。なのに何でそういう言い方するの? 別に見れるけど」と開けてしまったが最後。男友達(フルネームで登録)からの「日曜空いてる? メシ行こうよ」というメールでした。

 

「ごはん…行くの?」

「日曜は空いてるから行く」

「2人きりで?」

「うん」

「僕が『行かないで』って言っても?」

「私は行きたいから行くよ。あなたに指図されたくない」

「指図じゃない、お願いしてるの」

「そのお願いを聞く気も義理もありません」

「聞いてくれなきゃ別れるって言っても?」

「あのさぁ…そういう駆け引き、好きじゃないんだけど」

「駆け引き? 君のことが好きだから独り占めしたいだけだよ」

「好きなら信じたら? 本当にただの友達だよ」

「でも男でしょ? 絶対下心がある!」

「あなたはそうかもしれないけど彼は違うよ。決めつけないで」

「その人のこと庇うの⁉︎ 僕より友達のほうが好きってこと???」

「(溜息)…今この瞬間はそうだね、あなたより友達のほうが好きかもね」

「そっか…僕が一番じゃないんだ…」

 

売り言葉に買い言葉というか、妙に突っかかった言い方をしてしまいました。少し前に言われた「僕は君だけを見てるのに、君はそうじゃない時がある」という言葉にも反発していたせいか、「何かもう面倒くさい」と思ってしまったんですよね。「確かにあなたの愛情のほうが大きいかもしれない。でも夜の慣れない要求にも応えてるし、まして浮気なんてする気もないよ。信じてよ」と言えていたら、その場は収まったのかもしれません。けれどそうしなかった。多分、それが全て。

 

この日以降、彼とは連絡が取れなくなりました。だからといって彼のルームメイトに電話もしなかったし、もちろんマンションにも行かなかった。Eさんのことを好きになった気がしていたけれど、きっと本気ではなかったのでしょう。何と言うか…失礼ながら「流されて一緒にいた」という感じです。それでも、共に過ごした時間のほとんどは楽しかった。あそこまで丁重に扱われたり、激しい嫉妬や束縛をされたのは、学生時代以来でした。Eさん、あれからちゃんと就職したかな。親のスネ、かじってないかな。ともあれ、元気でいてくれることを祈ります。

 

余談ですが、私は22歳の時から日記をつけています。読み返すことは滅多にないけれど、最近は時間があるため引っ張り出してはページをパラパラ。書いてあるのは、仕事・恋愛・旅についてが7割。旅以外の趣味や、友達のこと等が2割。意外なことに、残り1割は「これからやってみたいこと」「行ってみたい場所」など“未来のこと”が綴られていました。いろいろな本に「やりたいことを紙に書くといい」と記してありますが、自分が実践していたとは夢にも思わなかった(笑)。実現しているもの、実現していないもの、両方あるけれど、たまにはこうやって“過去の自分”と向き合うのもいいですね。

 

十数年分ある日記は、内容もさることながら、その時々によって文章量や描写の細やかさが全然違うところも興味深いです。Eさんについては、上記の通り「きっと本気ではなかった」にも関わらず、やけに事細かく書いてあって読み応えがあったな。「  」内のやり取りも、日記を見ながらほぼそのまま入力しました。出会いから別れまで、どうしてあそこまで細部に渡って書き留めたのか…今となっては全く思い出せません(笑)。