女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

綻ぶ恋〈後編〉

 

 

メールをもらった翌日、自宅マンションに「離婚届受理証明書」が届きました。冗談でも何でもなく、KIさんは本当に離婚していたのです。「急過ぎて頭が混乱してるけど、とにかく詳しい話を聞かなくちゃ」と思い、ジム近くの喫茶店で彼と待ち合わせました。

 

KIさんは、「元奥さんは手に職があって、もともと共働きだからお金(生活費)の面は大丈夫。親権はあちら、養育費は当然支払う。こちら側の都合による離婚だから、子供たちと私は会えない。もちろん、あなたを好きになったことは話していないので、逆恨みされるとかは絶対にない」というようなことを淡々と説明。おおよその事態を把握した私は、“その時の気持ち”を正直に伝えました。まさか実際に離婚するとは思っていなかったこと、自分の発言に責任を感じていること、独身になったからといってKIさんを好きになれるかは分からないこと。彼は「行動を起こしたのは私の意志だし、あなたは当然のことを言っただけだから責任を感じる必要は全くありません。ただ、好きになってもらうチャンスは欲しいです。今度の週末、デートしてください」と言いました。

 

デートの日まで、私は同じことをぐるぐると考えていました。「彼は『責任を感じる必要はない』と言ったけど、でも私があんなこと言わなければ離婚しなかったはず。今、奥さんとお子さんはどういう気持ちなんだろう。人の家庭を壊すきっかけを作っておきながら、彼と付き合うことを検討したりしていいのだろうか…」。

 

悶々としたまま迎えた、約束の日。カフェでランチをして、水族館に行って、少し散歩をして、和食レストランへ行きました。率直に言って、とても楽しかったです。それを彼に伝えると、「良かった! 楽しかったなら来週も会いましょう」との返し。翌週も、その次の週も似たようなやり取りをし、正式な返事はしていないけれど、気が付けば付き合っている状態でした。

 

しばらくして、私のマンションの更新が迫ってきました。彼は離婚後、私の自宅から徒歩10分の場所へ引っ越してきたため、「ウチで一緒に暮らそうよ。それなら最寄り駅も変わらないし、定期券も無駄にしないで済むよ♪」とにっこり。そう言われて「もしや計画的な引っ越しだったんじゃ…」と思ったけれど、その頃には彼のことをすごく好きになっていたので喜んで同棲開始。特に大きなケンカもなく、トレーニングしたり旅行したりじゃれ合ったりしているうち、あっという間に月日は過ぎていきました。

 

けれど、同棲して1年くらい経った頃から、どうも彼の様子がおかしい。何か隠し事をしているのが分かります。訊くタイミングを計っていると、彼のほうから「話がある」と言ってきました。「実は、元奥さんの親の体調が悪い。平日は(ご両親が)子供らの面倒を見てくれているんだが、お義父さんが入院するからしばらく見られんと。それでこの前、急遽子供らの世話をしに行ってきた。子供らに会うってことは元奥さんにも会うってことだから、嫌がるかなと思って言えなかった。黙ってて悪かった」。な~んだ、と安心しました。「子供にとってお父さんはあなた一人なんだし、そんなの全然いいよ。でも、これからは行く日はちゃんと報告してね」「分かった、報告する。認めてくれてありがとう」。

 

「報告する」というその言葉は、半分は本当で半分は嘘でした。以降、「子供らのところへ行ってくる」という日以外も、「仕事がたまってるからジムに泊まる」という日が増えていったのです。今までジムに泊まるなんてことはなかったし、“たまっている仕事”はPCさえあればどこでだって作業可能なはず。加えて彼が愛用しているのは、ジム据え置きのデスクトップではなく軽量ノートPCですから、明らかに嘘をついています。この人は、何ですぐバレるような嘘をつくのだろうか…。今度は私のほうから「話がある」と切り出しました。「私に嘘、ついてるよね? 言わなきゃいけないこと、全部言ってみて」。

 

彼の話をざっくりまとめると、「子供たちと頻繁に会うようになって、今まで会えなくて寂しかった思いがどんどん募り、離れたくない気持ちが強くなっていった。君のことは大好きだし大切に思っているけれど、今は子供たちの側に居たいし居てやりたい。両方は無理だと自分でも分かっている。どちらかしか選べないなら、すまないけれどあっちの家に戻りたい。これはもう決めたことで、誰に何を言われても覆らない」とのことでした。

 

「もう決めたこと」

この一言が、私の胸を容赦なくえぐって、深い深い傷を付けました。

 

思えば、彼は最初からそうだった。こうと決めたら即行動。自分第一、相手の気持ちは二の次です。「もう決めている」ということは、要するに「話し合う余地すらない」「私の気持ちを聞く気もない」のと同じ意味。私は、ここまで自己中心的で身勝手で、“聞く耳を全然持たない人”と、初めて身近に関わった気がします。やり取りとしてはもっといろいろなことを言ったり言われたりしたけれど、今思い出してもはらわたが煮えくり返るので(笑)、ここには書かないでおきますね。

 

彼の告白後、私は“ぜひ最初で最後にしておきたい体験”をしました。「あなたの気持ちはよく分かった。つまり私の話を聞く気はないってことね。でもそれだとあまりに一方的過ぎて、私の気が全く収まらない。あなたもそれ相応のダメージを受けるべきだと思う。話を聞かないんだったら、そのムカつく顔面殴らせて」と言い、生まれて初めて人を(しかもグーで・笑)思いきり殴りました。彼は空手黒帯だし他の格闘技も何種類かやっているので、予め「ガード禁止令」を発令。右、左、右と3発パンチを入れ、構え直して渾身の右ストレートをお見舞いしたところで、「ごめん、もう勘弁して。すげぇ痛い…」と泣きが入ったため止めてあげました(笑)。いくら屈強な肉体の持ち主でも、やっぱりマウスピースなし&ノーガードだと「すげぇ痛い」ものなんですね~。

 

さて、KIさんは、別れてからも「俺通信」的なメールを送り続けてきました。それによると、元奥さん宅へ戻って半年足らずで家を追い出されたそうです。理由は「完全に信頼を失ったから」だとか(まだ多少信頼されていたことのほうが驚きですが)。あの日「子供らが自立するまで側に居てやりたい」などと偉そうに語っておきながら、結局長男6歳、長女3歳で放り出す結果になったわけか…。いずれせよ、私に対しても家族に対しても“中途半端で不誠実な人間だった”ということでしょう。

 

彼ときっぱり縁を切れたこと、今は本当に良かったと思っています。あのまま一緒にいたら、その身勝手さに振り回され続けて、きっと幸せな毎日は送れなかった。ただ、子供には何の罪もないので、彼のお子さんたちには楽しく生きていってほしいなと思います。KIさんに関して願うことは、その一点に尽きます。「貴様のような人間は地獄に堕ちろ!」と考えた時期もあったけれど、今となっては彼のことなど心底どうでもいい(笑)。人の気持ちって、良くも悪くもここまで変わるものなんだなぁ…。