女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

最後の恋[弐]

 

 

自分が担当するタレントさんと、(仕事用ではなく個人の)連絡先を交換することは時々あります。こちらからは絶対に訊かないけれど、先方から求められた場合は基本、男女ともに断らない。ただし、マネージャーさんに「〇〇さんと連絡先を交換させてもらいました」と必ず一報を入れます。長年かけて築き上げてきた事務所との関係を壊したくないし、生意気ながら「〇〇さんの行動を把握しておいてくださいね」と喚起する意味もあります。

 

でも今回は、初めてお付き合いさせて頂く事務所なので、まだ関係性が構築出来ていません。加えて、KTさんから「直接連絡取ってること、Sマネージャーには内緒にしといてくれる? プライド傷付けたくないから」と言われてしまいました。「普通だったら僕→Sさん→君の順に原稿送るんだろうけど、さっき話した通り、彼は僕の執筆活動に興味なくてね。普段のメールからして、彼に文才ないこと分かってるし…。だから、まず僕から君に草案を送りたい。君にアドバイスもらったり校正してもらったりして清書したものを、僕がSさんに送る。彼は多分、さっと読んで、特に手を加えないまま君に原稿を転送すると思う。それならSさんを傷付けることもないし、僕も君に指導してもらえるしでちょうどいいと思うんだよね。どう?」。

 

本当はダメだけれど、私は「了解しました。そうしましょう」と答えました。Sさんの“文章への興味のなさ”を打ち合わせ時に感じてしまっていたし、ここで「ノー」と言ってKTさんの“書く意欲”を削いでしまうことも怖かった。タブーを犯しても、「執筆者が望む方法」で誌面を作っていこう。それに、誰にもバレなければ何の問題もない。私が上手く立ち回ればいいだけの話だ。

 

原稿のやり取りをするようになって、KTさんの“溢れ出る才能”を思い知ることとなりました。歌詞を書く人というのは、長文を綴る能力も高いことが多いけれど、彼の場合は想像以上だった。強い個性を感じさせながらも、決して独り善がりではない。“読み手の半歩先”を歩いているけれど置いてけぼりにはせず、たまに後ろを振り返って「ついてきてるかな」と様子を窺ってくれるような文体です。

 

それから、修正を重ねていく作業もものすごく楽しかった。心が躍る、というのかな。例えば、少し粗め(完成手前)の原稿を頂いた時。「この箇所は2つの意味に受け取れる可能性があるので、再考したほうがいいかもしれません」と指摘したら、「それが伝わるか確認したかったので良かったです。敢えて2つの意味を持たせています」と返ってきて驚嘆。かと思えば、書きかけの短文を送ってきて「この場合、君なら何と続けますか」と問い掛けてきたりもする。非常に新鮮且つ刺激的で、私はいつも原稿を心待ちにしていました。話し言葉はフランクなのに、LINEだと妙にかしこまった物言いなのも素敵だった。

 

これもタブーといえばタブーなのかもしれませんが、KTさんとはよく食事に行きました。誌面の打ち合わせの他、“深夜に食事をする相手”としてちょうど良かったんだと思います。お酒抜きで朝まで付き合えるし(2人とも下戸)、年齢が近くて話題も合うし(当時KTさん32歳・私36歳)、いつ呼んでも断らないからです。KTさんに限ったことではないけれど、私は自分が担当するタレントさんからの呼び出し&お誘いには、よほどのことがない限り応じます。それで信頼されるなら安いものだし、「担当記者として“その人物のいろいろな面”を知っておいて損はない」と思っているから。ただし2人きりというのは滅多にない。先方が女性の場合はあり得ますが、男性と2人というのは未経験。しかも、KTさんは何年も前から取材したかった人で、知れば知るほど新たな魅力がどんどん出てくる。歌手として、人として尊敬しているのはもちろん、この頃には異性としても好きになってしまっていました。

 

私の気持ちを知ってか知らずか、平日の夜だけだったお誘いが、休日の昼間にまで拡張。カフェやら古着屋やら散歩やら、まるでデートのようなコースです。そしてなぜか、服装の指定がある。もっと脚を出せ、髪をアップにしろ、ハイヒールを履け…等々。彼は彫刻並みに整った顔面の持ち主&超絶オシャレなので、「俺様の隣を歩くんだから、顔は無理でも服ぐらい好みに合わせろ」ということか?と思い従っていたのですが、どうやら違うことが判明。最近「久しぶりに好きな人が出来た」そうで、彼女との疑似デートというか下見というか、だからその人っぽい服装をさせられていたわけですね。納得(笑)。けれど不思議なもので、「好きな人」の話を聞いても、写真を見せられても、多少胸がチクリとはしたものの、嬉しい気持ちのほうが大きかった。彼は随分前に別れた元カノに未練たっぷりだったため、「やっと新しい恋が訪れたのね」と思ったし、それを私に話してくれたことも嬉しかった。事が上手く運んで、あわよくばその恋が歌にならないかしらという下心もありました(笑)。

 

そんなこんなで半年が過ぎ、連載も終わりに近づいてきた頃。いつものようにLINEのやり取りをしている中で、「無事に最終回を迎えたら打ち上げさせてください。行きたいお店があればリクエスト承ります」と送りました。こういう場合、叙〇苑かカラオケのパーティールームに行くことが多いのですが、KTさんは焼き肉があまり得意ではないため一応確認。「考えておきますね」と言われた数日後、彼から送られてきたのは某有名高級ホテルの外観画像でした。「ホテル内のレストランか~。予算オーバーっぽいけど仕方ない」と腹をくくり、「何というお店ですか?」と返信。すると「ここのルームサービスは絶品だそうです。一緒に朝ご飯食べましょう」とのレス。思わず画面を二度見しました。ルームサービスって、部屋で食べるあれだよね? つまり部屋を取るってこと? 朝ご飯=泊まるって意味だよね? ということは…頭が混乱しているうちに、希望の部屋や階数が送られてきました。冗談で言っているわけではなさそうです。

 

彼はボディータッチも多いし、それまでも「だいぶ際どいな」と感じる行動は取っていたけれど、まぁ許せる範疇というか、「きっと100人くらいの女性に同じようなことしてるんだろう」と思っていたので特に何も言いませんでした。「あれだけ男前だと、“拒否されない”っていうのが当たり前なんだろうなぁ。知らない世界過ぎて面白い」くらいに思っていた。ただ、彼と一線を越えるなんてことは、私の頭の中には全くありませんでした。自分が担当している人とそういう仲に…万一その事が知れたら、今日まで積み上げてきた信頼を、会社内でも外でも全て失ってしまう。しかも彼には好きな人がいる。好きな人がいるのに、なぜ他の女性をホテルに誘ったりするのか。あぁ、全然分からない。

 

考えても分からないので、私は自分に問い掛けました。

 

「あなたはどうしたい?」

 

答えはすぐに出ました。業界のルールを盛大に破ろうと、彼が誰を想っていようと、私は彼のことが好き。彼と一晩過ごせるチャンスが目の前にあるのだから、それをみすみす逃す手はありません。もし悔やむことになったとしても、抱かれずに後悔するより、抱かれて後悔するほうがずーっといい。私はweb上で予約をし、「希望のお部屋、取れました」と彼に伝えました。

 

   ー[参]へつづく ー