女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

最後の恋[参]

 

 

約束の日、15時。チェックインして先に部屋で待っていると、KTさんがやって来ました。私は「ドラマみたい。36年間生きてると、こんなことが現実に起こりえるんだ」と落ち着きませんでしたが、彼は慣れているのかごく普通(笑)。入室以降ずっと喋り続けていて、ディナーのために一旦外へ出て、戻って来てハーブティーを飲みながらもまだまだ喋っている。彼の話は面白いし、私は何よりその声がたまらなく好きなので、誰にもじゃまされずに“大好きな声”を堪能できる時間はまさに至福。その後、未発表曲のデモをたくさん聴かせてくれたのですが、これも幸せすぎて昇天するんじゃないかと思いました。「このまま延々、彼の歌を聴いて過ごすのもいいなぁ♪」とうっとりしていたら、「あれやってくれない? マッサージ」と彼がベッドに寝転がります。2人で会う時はたまにマッサージをしていたのですが、ベッドでやったことは当然ありません。急に緊張してきました。

 

本格的に勉強した経験はないけれど、趣味の一つが“マッサージ屋めぐり”なので、いつの間にかツボ等を覚え、一通りのことは出来るようになっていました。歴代の彼氏にもよくリクエストされていたため、人にやってあげること自体は慣れています。「今日は全身やってほしいな」ということで、まずはうつ伏せになってもらって、足先から始めて徐々に上半身へ。終わったら仰向けで同じ流れなのですが、仰向けになったとき思いきり目が合ってしまい、緊張がピークに達して自動フリーズ。固まっている私を見て、上体を起こす彼。「大丈夫?」と手を取られた時にはもうダメでした。今まで散々「本当に良い声」と伝えてきたからか、手を取ったまま「緊張してるの?」と耳元で喋ってきます。無理だ、耳が耐えられない。これ以上そこで喋られたらおかしくなりそう。体に力が入らない上、彼の顔を全然見られません。「こっち見て」と言われたその後のことは、よく覚えていない…。

 

ことは全然なく(笑)、細かい部分まで一つひとつ覚えています。最初はどうしようもなく緊張していたけれど、キスがあまりに気持ちよすぎて&素敵すぎて、そこからはもう夢中でした。“求め合う獣”くらいの勢いで、シャワーも浴びずにあんなことやこんなことをしました。前から「セックスの時間がすごく長い」という話は聞いていましたが、その夜は一睡もさせてもらえず、何と!朝8時まで行為が継続。私の中の最長記録です。しかも普段はSっぽいのに、ベッドではかなりのМ。いろいろと懇願してくるあの潤んだ瞳を思い出すと、今もちょっと興奮してしまうほどです。ギャップ萌えと、眩いばかりの秘部の美しさにクラクラしました。あんなに美しい秘部は、生まれて初めて見た。リアルダビデ像かと思いました。

 

徹夜明けの朝食(念願のルームサービス)は、眠すぎて美味しいんだか何だかよく分からなかったけれど、「私は今、世界で一番幸せだ♡」と思いました。本能のままの姿を見せ合い、大好きな人の声を一晩中聴いていられたのだから。「一生に一度の、素晴らしい体験をありがとう!」と心の中で感謝しました。

 

けれど翌日からは苦しかった。「一生に一度」と思っていたのに、抱かれたらもっと好きになってしまい、どうしても二度目を期待してしまう自分がいる。ホテルに行った日以降も、彼は今まで通り食事に誘ってきます。まだ連載も残っている上、現場でも顔を合わせるので、接触を避けようにも避けられません。もちろんマネージャーさんにも、親友にだって言えない。誰にも打ち明けられないことが、こんなに辛くてしんどいとは思いませんでした。気持ちを外に吐き出せない分、自分の中で想いがどんどん膨らみます。毎日、毎分、毎秒、彼のことしか考えられなくなって、あれほど大切にしてきたはずの仕事も手につかない。お風呂場にまで携帯を持ち込み、彼からの“二度目のお誘い”を待ってしまう。「自分が自分じゃなくなる」というのは、きっとああいう状態のことを言うのでしょう。

 

その頃の私は痩せた…というよりやつれた雰囲気だったらしく、周りから「体調大丈夫?」と日々心配されていました。自分ではよく分かっていないため、「何が?」と答えて余計に心配させてしまう負のループです。目が覚めたのは、この業界に入った頃からお世話になり続けている、他社の先輩が厳しい言葉を掛けてくれた時。彼女は私の真正面に立ち、両肩を強く掴んでこう言ったのです。「あんた、今にも死にそうな顔してるけど、そのこと自分で気付いてる? このまま行くと戻ってこれなくなるよ。その男とじゃ、多分幸せになれないと思う」。

 

余談ですが、先日再放送していたドラマ「凪のお暇」(TBS系列)を観ていて「あっ」と声が出るシーンがありました。主人公・凪(黒木華さん)はメンヘラ製造機・ゴン(中村倫也さん)と男女の仲になった後、彼のことで頭がいっぱいになり自堕落な生活を送ってしまう時期が。寝ても覚めても「ゴンさん、ゴンさん」で、自分のことも周りのこともまるで見えていません。変わり果てた凪の姿を見た元彼・慎二(高橋一生さん)が「ゾンビみてぇな面しやがって」と言い放つシーンです。「ゾンビ…死にそうな顔…私もこんなふうだったのか」と思いゾッとしました。あのとき先輩は、相談できていなかったにも関わらず、私の様子を見て「こいつヤバイな」と瞬時に気付いてくれた。そして「戻ってこい」と言ってくれた。彼女には、仕事から恋愛まで節目節目で相談に乗ってもらい、14年間お世話になりっ放しです。まだ何一つ返せていないけれど、改めて「ありがたい存在だなぁ」と感じました。私も、サラッとああいうことが出来る人になりたい。

 

「前に進まなくちゃ」と思った私は、KTさんに「お話があります」と連絡。カフェで待ち合わせをし、「異性としても好きになってしまった」と告げた上で、彼が私をどう思っているのか尋ねました。「セックスしたいとは思ったけど、付き合うつもりはない。ごめん」という答えでした。「セックスの件も言うんかい!」と突っ込んでしまいそうだったけど(笑)、めちゃくちゃすっきりして妙に晴れやかな気持ち。ちゃんと言えて、そして聞いてもらえて良かった。やはりケジメというのは大事ですね。「ではこれまで通り、担当記者&友人関係ということで宜しくお願いします」と伝え、その後は2時間に渡って本音トーク。これが非常に興味深い内容でした。性に関する話はそれまでも結構していましたが、“一度寝た相手だからこそ出来る話”というのがあるんだなぁと実感。そして私の“セックスへの考え方”が、少しだけ変わりました。いや、広がった、と言うべきか。

 

彼は「セックスはいつもしたいと思っている。ある程度僕のフェチを満たしていて、気が合う人であればすぐにでもしたい。相手もフリーで、同意の上なら問題ないでしょ? でも本当に好きな人には奥手で、なかなか手を出せない」と言っていました。よくもまぁ告白してきた直後の相手にそんなこと言えるよな~と思いつつ、話の内容に興味がありすぎて怒りの感情が一切沸いてきません(笑)。あとは性欲に対する考え方も新鮮でした。彼の主張はこうです。「人間の三大欲求あるよね、食欲・睡眠欲・性欲。お腹すいたとか眠いとかは普通に言うのに、『セックスしたい』って言っちゃいけないみたいな空気、僕はおかしいと思う。さっきも言った通り、僕はいつでも性欲を満たしたいしセックスしたい。君ともしたかった。でも『好きな人だから』ってわけじゃない。君は好きな人としかしないかもしれないけど、僕は『この人としたい』と思って、相手もOKだったらする。僕の基準に合わせる必要は全くないけど、“そういう人もいる”ってことは知っといてもいいかもしれないよ」。

 

確かに今まで「セックスは好きな人とするもの」だと思っていました。漠然と「相手もそうだろう」と思っていたけれど、なるほど、そうとは限らない。実は、彼のこの話を聞いたからこそ、結婚後、女性用風俗の利用に踏み切れたという背景もあります。「自分が『したい』と思った人としてみる」という選択肢が、私の中に加わったからです(※女風は性行為はしませんけどね)。昼下がりのカフェで、堂々と「そりゃセックスしたいよ。人間として当たり前の欲求だし、何より生身の女体が大好きだもん」と語る彼を見て、至極正論を述べているような気さえしてきました。「君だってセックス、好きでしょ? 僕を好きでいてくれたのもあるだろうけど、セックス自体が好きじゃなかったら、あんなに長時間、いろんなことさせてくれないと思うよ。僕の性的嗜好も含めて、“受け入れ態勢”と“探求心”があるなってことも途中から確信したし」。

 

「それは否定できない」と思いました。何においても好奇心は強いほうだし、“未知なるプレイ”への抵抗も人より少ないかもしれない。よく分からなくても、嫌悪感がなければとりあえず一度はやってみる。そして、彼とセックスしてみて、その貪欲さと熱心さに感動すら覚えた自分もいます。彼がMだからかもしれないけれど、「相手に奉仕したい。気持ちよくなってほしい」という思いがここまで強い人がいるのか、と驚きました。自分が気持ちよくなることは後回しで、相手の快感が先。にも関わらず時間が長いのだから、本当にセックスが好きなんだなぁと思いました。あとは、「君は仕事の時は従順だけど、プライベートとかLINEだとSの要素があった。だからそれも楽しみだった」と言われてびっくり。「えっ⁉ そんなつもりはないけど…例えばどういうところが?」と訊いたら、「ふふ、無意識のSって最高だよね。だから言わない」と返されました。思えば、最後にこういう会話が出来たことも貴重な経験です。当然、音楽の話が一番多かったけれど、政治経済でも下ネタでも、発想豊かな彼とは何を話していてもすごく楽しかった。いつも「どういう思考回路になってるんだろう?」と興味津々で話を聞いていました。

 

彼は彼なりに気を使ってくれたのでしょう。本音トークをした後、駅までの道を歩きながら「前の恋愛で傷付いて以降、人を好きになることが怖かった。だから想いが叶わなくても、“また誰かをこんなに好きになれたこと”自体が嬉しかった。ありがとう」と伝えると、「うん」と一言。別れ際に必ず言ってくれていた、「じゃあ、また」の言葉がありませんでした。彼とプライベートで会ったのは、この時が最後です。

 

楽しくて、嬉しくて、幸せで、尊くて、恋しくて、苦しくて、自分が自分じゃなくなって。いろんな感情を味わい尽くして、私は「もう十分」と思いました。自分を見失うほどの激しい恋は、もうしなくていい。次は、穏やかで優しくて、一人の女性としかセックスしなくて(笑)、安定した関係を築けるような相手を見つけたい。ぼんやりそう考えた時、「ん? それって恋愛じゃなくて結婚なのでは?」と思いました。結婚願望ゼロの私が、“結婚”というものを具体的に意識した瞬間でした。

 

*カテゴリー「過去の恋愛」は、ひとまずこれにて終了となります。次回以降は、夫とのことを書いてみようかなと思っています。