女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

記念写真

16年間勤めた出版社を辞める日まで、あと約3週間。何かとバタついていたけれど、上司のある発言により、「本当にもうすぐ辞めるんだ」という実感が湧いてきました。その発言とは



「この状況だから、送別会は開催出来ない。長く貢献してくれたのに申し訳ない。代わりといっては何だけど、編集部のみんなから『好きなものを贈ろう』って案が出てる。予算◯◯円くらいまでなら出せるから、候補考えといて」



ありがたい気遣いだなぁと思いました。私は下戸だし、宴席で主役になるのも得意じゃないので送別会がないのは正直言って助かる(笑)。お言葉に思いきり甘え、「好きなもの」の候補を2〜3出させてもらいました。どうか第一候補の在庫がありますように



ただ、送別会はいいのですが、1つ残念というか後悔したことが。それは、散々お世話になった皆さま方と、ほとんど写真を撮ってこなかったこと。



私はエンタメ雑誌の記者をしています。扱うジャンルとしては音楽の比重が高いため、レコード会社や各プロダクションの方々に、特にお世話になりました。入社以来(つまり16年間)懇意にして頂いている方も、かなりの人数いらっしゃいます。でも、皆さんと写真を撮るのは出張取材の集合写真の時くらいで、個人的に撮ったことはほぼありません。仕事仲間なので当たり前といえば当たり前かもしれないけれど、「もう会えないのか」と思うと急に寂しくなってきました。



もちろん、自分が担当してきた歌手・俳優たちのパフォーマンスや努力する姿を間近に見られなくなることや、それを読者の方々に自分の目を通してお伝え出来なくなることもすごく寂しい。だけど退職が迫ってきた今、仕事仲間と会えなくなったり、歌について、ライブについて、今後の音楽業界について、熱く語れなくなることのほうがもっと寂しいんだと気付きました。基本的には、私も含めてバカがつくほどの音楽好きの集まりですから(笑)、話していて楽しいに決まってるんですよね。改めて、幸せな仕事に就かせてもらっていたことに感謝しています。



そして、鮮やかに蘇ってきた思い出が3つ。今も昔も、私は他社の先輩に非常に恵まれています。子分肌なせいか、はたまた危なっかしいせいか、何かと面倒を見てくれる方が多い。中でも娘のようにかわいがってくれたのが、当時50代だった記者1人、同60代だった記者2人。うち2人は大酒飲みで頑固ジジイ(笑)、1人はどの若手よりも現場に顔を出す&めちゃくちゃ優しいオジサマ。その3人の共通点が、後輩たちの写真を勝手に撮って本人に渡すというものでした。



それは「ハイ、チーズ!」と笑顔&ピースサインで撮るような写真ではありません。私たち後輩が働いている場面ライブやイベントを撮影していたり、歌手のコメントを取っているところだったり、です。最初に「はいコレ。若者が一生懸命仕事してる姿ってのはいいよね〜」と渡された時(わざわざプリントしてくれた)は意味が分からず、「え、盗撮?」と思いました(笑)。でも3人とも、「自分を客観的に見るのは大切だよ」「写真は将来、絶対いい記念になるから」と言い、ことあるごとに私が仕事をしているシーンの写真をプレゼントしてくれたのです。今なら、その真意が理解出来る気がします。



事実、先輩方が撮ってくれた写真の数々は、私の宝物となりました。写真を見ればどういう仕事をしていたかというのが一目で分かるし、めちゃくちゃ真剣な表情でカメラを構えている姿などは、自分で言うのもアレですが「なかなかカッコイイぞ♪」とも思う。自分の仕事をきちんとした上で、後輩のそういう一瞬を切り取れる先輩方の腕もやはりスゴイ。



お三方から「写真は絶対いい記念になる」と聞いていたにも関わらず、仕事仲間との写真をほぼ撮ってこなかった自分に対し、ちょっと憤りを感じました。コロナがなければ、今からでも会う人、会う人と記念撮影しまくって退職日を迎えるところだけれど、今更タラレバを言っても仕方ないですもんね



なお、オジサマ方は3人とも、既に現役を退かれました。50代だった方は脳梗塞で倒れ、後遺症(言語障害)が残ってやむなく廃業。60代だったうちのお一方は、60代のうちにガンで他界。もうお一方は、75歳で惜しまれつつ引退、現在は故郷に戻られ娘さん夫婦と仲良く暮らしています。この方に退職することを電話でお伝えしたら、とても驚いて&残念がっていました。「君が辞めるんじゃ、もう東京行ってもつまんないなぁ。レコード会社にも俺の知ってる人間は少なくなってきたし時代は流れたってことなんだろうね」。



時代は流れた。確かにそうなのでしょう。電話の終盤、「昔撮ってもらった写真、今も大事にしてますよ。これからも大事にします」と言ったら、「そうかそうか」と嬉しそうでした。写真って、その時の自分が写っていることはもちろん、誰が撮ってくれたかとか、当時何を考えていたかとかもパッと思い出せるアイテムなんですよね。そういう意味も含めての「いい記念」だったんだなぁと、感慨深い思いでいっぱいです。人生の先輩方が言うことって、ボディーブローのようにじわじわ効いてくることが多いなぁ。