映画「窓辺にて」(11/4公開)を鑑賞しました。出演は稲垣吾郎さん、中村ゆりさん、玉城ティナさん、若葉竜也さん、佐々木詩音さん、ほか。脚本・監督は今泉力哉さんです。
〔*以下、多少のネタバレを含みます。内容を知りたくない方はご注意ください〕
「大ファンです!」と名乗れるほどに貢いではいないものの、稲垣さんのことは、「都内で舞台をやる」と聞けば観に行ったりするくらいには好きです(歌手ではなく、役者として立つ舞台の意)。
彼は、20代の頃からあまり変わらない容姿と口調で、どこか浮世離れした雰囲気があるのに、演じる役が毎回“ちゃんとその人物に見える”のが不思議且つ大変魅力的。私見ですが、お若い時分の田村正和さんに通ずる空気感を纏っている感じがします。美しくて儚げで、陰陽で言えば確実に陰。お二方とも、強さと弱さ、或いは静と動が同居しているようなイメージがあります。
さて。今作の稲垣さんは、「妻に浮気されていることを知っても、その事実より何より、『浮気した妻への怒りが全く湧いてこない自分自身』にショックを受ける」という役どころです。知的で冷静、でも少しだけ“くたびれた感”のあるフリーライター・市川茂巳(45歳設定)の役がぴったり合っていました。
彼は、「『妻のことが好きじゃない』わけじゃない。だけど、彼女の浮気を知っても、怒りの感情が全然湧いてこないんだ──」と友人の前で嘆きます。
それ、分かる気がするなぁ…と思いました。
もちろん、我が家とは事情が異なることは承知しています。市川夫妻は、当初愛し合って結婚したんだろうし、セックスもそれなりにあったと予想できる(妻の浮気以降は分かりませんが)。一度も交わったことのない私たち夫婦とは似ても似つかないというか、根本的に違います。ただ、もしも我が夫が誰かと浮気をしていたり、他に好きな人がいたりしても、恐らく憤りを感じないし、離婚もしないだろうなと思うんですよね。この“穏やかで平和な日常”を手放すつもりは、今のところ全然ない。
私は昔、“すっっっごく好きな人”と同棲をした経験があります。そりゃもう毎日ラブラブ(笑)で、心身ともに満ち足りた7年半だったけれど、彼との別れを選んだことは1ミリも後悔していません。「叶うなら彼と結婚したかった」とも思わない。プラス、「たとえ一生会えないとしても、心の底から幸福や健康を願う相手が地球上に存在している」というのは幸せなことだなぁと感じています。場合によっては、夫婦として生涯を共にする以上に、遠くで祈ったり見守ったりするほうが幸せなケースだってあるかもしれません。
人の気持ちというのは、良くも悪くも変わります。どれほど恋焦がれ、胸をぎゅーっと締め付けられた相手であっても、5年も経てば「私、何で彼のことあんなに好きだったんだっけ?」とか思ったりしますもんねぇ(笑)。逆に言うと、今は“生活する上での大事なパートナー”としか見ていない夫のことを、異性としてめちゃくちゃ好きになる日が来ないとも限らない。もしそうなったら、「セックスレスという現実=とんでもなく辛いもの」としてのしかかるでしょうが、それはその時に悩めばいいので、ひとまず放っておくと致しましょう(笑)。
スクリーンの中で、「僕って冷たい人間なのかな」「僕は、心から人を好きになったり執着したりしたことがないのかも…」的なことを口にし、自分で自分にがっかりしていた様子の茂巳。そのシーンを観て、「別に構わないのでは?」と感じました。
例えば。下記は、石川さゆりさんの名曲「天城越え」の歌詞(抜粋)です。
隠しきれない移り香が
いつしかあなたにしみついた
誰かに盗られるくらいなら
あなたを殺していいですか
想い人への激しい愛憎、情念、狂気…いろんな気持ちがないまぜになっているように感じるけれど、多分、茂巳はこの詞に共感できない&理解が及ばないことでしょう。だけど何ら問題ありません。もし「どういう心情なのか知りたい」と思ったら、共感できている人に訊けばいいし、特に知りたくないならそのままにしておけばいい。大勢の人が理解しているからと言って、「自分も同じように理解しなくちゃ」と努力する必要はないと思います。
ちなみに。私自身は“殺したいほど好きな相手”に出逢った経験はありませんが、「いっそ部屋に閉じ込めて、彼の姿を延々眺めていられたら…♡」という妄想程度ならしたことございます、ハイ(笑)。そして、“好きで好きで仕方ない人”と過ごした時代も、夫と平穏に暮らしている現在も、両方幸せです。ひょっとしたら“幸せの種類”は違うのかもしれないけれど、いずれにせよハッピーなことに変わりはありません。
きっと、幸せの形や基準っていろいろあるんですよね。人によっても、その時々によっても違うでしょうから、「瞬間・瞬間で見つけていけばそれでいいんじゃない?」と思っています。