女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

異なる言語

一応、前回からの続きとなります。

 

 

これは、かれこれ約20年前のお話。

私は当時、某巨大有名施設でアルバイトをしておりました。1日何万人というお客さまがいらっしゃるため、老若男女、そして異国の方だったり障害のある方だったりも数多く来場。人生の中で、あれほど多種多様な方々と触れ合う日々を送ったことは、後にも先にもあの3年間だけです。

 

さてさて。いつものように、次々いらっしゃるお客さまをご案内していたある日。お客さまの列が途切れるタイミングを待って、一人の男性が近付いてきました。「多分、訊きたいことがあるんだろうな」と思い、「いらっしゃいませ。何かお困りですか?」とお声掛けします。返事の代わりに、右手で“何かのサイン”をこちらへ向けて出す彼。そのサインというのは、“人差し指と親指を丸めた「C」のような形+中指・薬指・小指を等間隔に開いて真っ直ぐ伸ばした形”でした。
「どうしよう、全然分からない。お顔は日本人に見えるけど、もしかして外国の方なのかなぁ。外国では有名なハンドサインとか? え~、どういう意味なんだろう…」

考えているうちに、彼は笑顔で「大丈夫です」という感じを醸し出し、立ち去ってしまいました。

後で調べたところ、それは「トイレ」を意味する手話でした。「5本の指で『WC』を表している」と知り、「本当だ! 見たまんまで超分かりやすいのに、何で気付けなかったんだよ私~‼︎」とめちゃくちゃ落ち込んだっけ…。それからは、耳の不自由なお客さまに訊かれても答えられるように、2種類存在する「トイレ」の手話と、「ありがとうございます」の手話をマスター。いつでも使えるよう準備していました。

 

数日後。バイト先で一番お世話になっている先輩に上記の話をしたら、返ってきたのは予想外の言葉でした。

「◯◯(←私の名前)は、お客さんのために努力して偉いね。でも、気を付けなきゃいけないこともあるから言っとくね。“喋らない人=耳が聞こえない人”とは限らないよ。難聴かもしれないし、失語症とか吃音とかかもしれない。相手が手話で話してきたら全然問題ないけど、筆談のほうがいいケースもある。その辺を見極めないと、私みたいに失敗しちゃうよー(笑)」

 

先輩は、もともと「少し手話が出来る」そうで、接客の際も「積極的に手話を使っていた」のですが、「ある時お客さまに怒られてしまった」と。

「(筆談で)『私は喋れないだけでちゃんと聞こえてる。手話やめて!』って書きなぐられて、涙目で睨まれちゃってさ。その時反省したんだ。“耳が不自由”って決めつけて、何も考えずに手話使って傷付けちゃったんだって。だから、◯◯には同じ失敗してほしくないなと思って」

 

こちらは良かれと思ってしたことでも、相手にとっては不快だったり、時には傷付けてしまう場合もある──。

先輩は、自分自身だって傷付いたというか、きっとショックを受けただろうに、笑いを交えながら経験談を語ってくれました。私への、そしてお客さまへの心配りと優しさに、当時も今も深く感謝しています。彼女のおかげで、むやみやたらに手話を使い、誰かを傷付けてしまうこともなく、今日まで過ごすことが出来たのだと思っています。

 

以降、「トイレ」の手話を使うことは一度もなかったけれど、「ありがとう」を使う機会は結構あった。別のバイト先、それから街中でも、聾唖者の方と触れ合った際に「ありがとう」を手話で伝えると、その一言だけでも喜んでもらえることが非常に多かったです。ぱぁっと表情が明るくなって&ニコッとして、「ありがとう」と手話で返してくれる。そんな時、「これって異国の方と会話する時に似てるな〜」と感じます。

私はコロナ前まで、毎年海外を旅していました。その際、言語が全く分からない土地でも、「こんにちは」「さようなら」「ありがとう」等、基本の挨拶は一通り覚えた上で入国。多少発音やイントネーションが変でも、“相手の言語”を使うことによって「敵意はありません」「仲良くしたいと思っています」という気持ちが伝わると考えているからです。私自身も、「コニチハ」「アリガト」と頑張って喋ってくれる外国人には親近感が湧くし、発音なんて気にもならない。手話も同じじゃないかな?と想像しています。

 

最後に。

アルバイトをする目的は、もちろん“お金を稼ぐため”です。ただ、振り返ってみると、「実にいろいろな勉強と経験をさせてもらい、それが後々活きている」ことが本当に多い。学業との両立で、体力的にキツイ時期もありましたが、学生時代にたくさんバイトをしておいて良かったなぁと心から思います。「自分がどんな仕事に向いているか」「どんなことにやりがいを感じるか」等も分かったりしますので、学生の皆さまは、たとえお金に困っていなくとも、一度はバイトをしてみるといいかもしれません。学校では得られない体験や出会いが待っている…かもしれませんよ♪

 

「トイレ」を表す手話で、主に男性や若者が使うそうです。もう少しフォーマルな表現…つまり「お手洗い」的な手話もあります。