これまでにも書いている通り、私は音楽が大好きです。クラシックに始まり、ジャズ、昭和歌謡、J-POP、フォーク、アニソン、ロック、ヒップホップ、インスト、劇伴、民族音楽、ビジュアル系等々、時代や国を問わず、実にさまざまな音楽を聴いて育ちました。ただ、アラサー以降になって、初めてその存在を認識したジャンルもあります。それはキャラソン。
その前に、「アニソンとキャラソンの違い」のご説明を少々。
アニソンはアニメソングの略で、テレビアニメのオープニング曲やエンディング曲(以下ED曲)、主題歌や挿入歌などの総称です。昔から変わらず人気が高いのは、「残酷な天使のテーゼ」(歌:高橋洋子/「新世紀エヴァンゲリオン」)や「CHA-LA HEAD-CHA-LA」(歌:影山ヒロノブ/「ドラゴンボールZ」)、近年だと「紅蓮華」(歌:LiSA/「鬼滅の刃」)、「ミックスナッツ」(歌:Official髭男dism/「SPY×FAMILY」)あたりでしょうか。
一方のキャラソンは、キャラクターソングの略。こちらは、声優さんがアニメやゲーム内で演じた役柄(キャラクター)のまま発表する楽曲です。あくまで“キャラとして歌っている”ので、CDをリリースする際・配信する際も、声優さん名義ではなくキャラクター名義。どうですか、この時点で若干ややこしくないですか(笑)? 私はこの仕組みを知ったのがアラサー以降だったため、必然的にキャラソンの魅力と素晴らしさに気付くのもだいぶ遅れてしまったのでありました…(泣)。
「じゃあどのタイミングで気付いたのか?」と申しますと、アニメのエンディングを観ていた時です。当日は、動物達が主役のアニメ「しろくまカフェ」のED曲を、楽しみながらもしっかりクレジットをチェックしつつ聴いていました。「しろくまカフェ」は定期的にED曲が変わるシステムだった(←曲自体も歌唱者もED映像も変わる)ので、その日初めて聴く歌声にわくわく&うっとり。「今度はパンダくんかぁ、めっちゃカワイイなぁ♡♡♡」とニヤついていたら、ED曲のタイトルが表示されました。
「Bamboo☆Scramble」(歌:パンダ/CV. 福山潤)
「オッケー、『バンブースクランブル』ね。パンダくん、笹大好物だもんねぇ♡ …ん? っていうか、今“福山潤”って出てなかった? 福山潤さんって、『黒執事』でグレル・サトクリフ役演ってた人じゃん! え、同一人物なの⁉︎ パンダくんは可愛さの塊、グレルは狂気(とオネエ)の塊…台詞の声が違うのは分かるけど、歌声まで全然違うなんて~! 何コレ凄すぎるんですけどーっ‼︎‼︎‼︎」
私は漫画「黒執事」(枢やな著)をこよなく愛しておりますゆえ、アニメ「黒執事」も当然全シリーズ観まして、“動く各キャラ”に命を吹き込んでくれた声優さん達に心から感謝しています。キャラソンも全買いしたのですが、悪魔・セバスチャン役の小野大輔さんを筆頭に、死神・グレル役の福山潤さんの歌声にもそりゃあ感動。「わぁ、本当にグレルが歌ってる! ありがとう福山さん♪」と昇天しかけたのでありました♡ 狂気と色気と悲哀とユーモアに満ち満ちた、グレルの歌声の記憶が鮮明だっただけに、それとはまるで違う声=パンダくんの声で、ふわふわと可愛らしく「Bamboo☆Scramble」を歌っていることが嘘みたいというか、信じられない気持ちでいっぱいでした。神業すぎます。恐るべし、トップ声優さんの実力。
私は2020年秋まで、長きにわたりエンタメ系の雑誌記者だったのですが、割合として一番多かったのは歌手の取材です。ソロ、グループ、バンド、ユニット、何でもござれで、シンガーソングライターもいれば、どなたかに楽曲提供してもらう方もいました。トータルものすごい数のライブを観てきたけれど、“地声じゃない声で歌い続ける人”には会ったことがありません。もちろん、ファルセットやミックスボイスを使う方は大勢いたし、ミュージカル等では役に合わせて作り込んだ声で歌う場合もあります。でも、そういう時でもベースとなるのは地声。
けれどキャラソンは違います。声優さんの地声とは異なる“役そのものの声”で…そして、たとえ性格やテンション等が声優さんご本人とかけ離れていても、完全に近い形で己を消し去り、終始そのキャラになりきって歌うのです。これは私の中に全然ない発想だったから、本当に驚いたし感嘆しました。プラス、レコーディング時だけならまだしも、ライブやイベントを開催するとなれば、そのキャラのまま何曲も歌い続けたり、果てはトークまで完璧にこなすことを求められるケースもザラ。何なら、「髪型とか醸し出す空気感とか、ビジュアルごとキャラに寄せてくれる声優さんもいる」と聞き及んでおります。これ、ファン側はめちゃくちゃ楽しいだろうけど、声優さん側は予想以上に大変だと思います。
記者時代、私が担当していた俳優さんの中に、「俳優と歌手の両方をやっていきたい。出来れば引退するまで」とおっしゃる方が結構いました。理由を尋ねると、「俳優は、ほぼほぼ“自分以外の誰か”になるのが仕事。楽しいけど、一度役に入るとリセットが難しい場合もある。歌手は基本、自分自身でいられるから、リセットする必要がない。だから両方やってたほうが、いろんな意味でバランスを取りやすいんだ」的な答えが返ってくることが多かったです。それは、もしや声優さんも同じなのかもしれません。
数え切れないほどキャラソンを発表し、絶大な人気を誇る声優さんでも、自分名義でアーティスト活動をされる方が男女ともに沢山おられます。ひょっとしたら、地声で、或いは自分の言葉やメロディーで、その人自身を表現することによって、“いろんな意味でのバランス”を保っているのかもしれないなぁと勝手に想像したりしています。好きでやっている仕事とはいえ、あまりにも長い時間“自分以外の誰か”を演じていると、役に引っ張られすぎたり、自分を見失ってしまったりすることだってあるでしょうからねぇ…。
私はいつも楽しませてもらうばっかりで、“演じる側”“表現する側”の気持ちを理解することは永久に出来ないけれど、せめて「きちんとお金を落とす」ことで、彼らの努力に報いたいと思っています。これから先の日本にも、アニメ、アニソン、キャラソンというエンタメが、ずっとずーっとあり続けますように。そして制作者の皆様方が、きついスケジュールや薄給等から解放され、誇りとゆとりを持って、日々の仕事に邁進できますように──。