↑↑↑ 「かしまし会」の本編はコチラ ↑↑↑
先輩の“意外なお話”がもう一つあったことを、うっかり書き忘れておりました。
先輩が日本を出たのは、今から約15年前。英語を学ぶために語学学校へ通うだけだったはずが、その後大学に編入。日本でも大学を卒業しているけれど、そこで専攻していたのは全く異なる分野でした。彼女は渡豪後「死に物狂いで勉強」し、現地で看護師資格を取得するに至った超絶努力家です。記者だった頃も尊敬していましたが、母国語以外を用いて、しかも30代半ばを過ぎてから看護師になるなんて凄すぎる。尊敬を通り越して、畏敬の念すら抱いています。
留学以降はずーっと英語漬けの日々を送り、旦那さん(オーストラリア人)やドクター、患者さんたちとももちろん英語で会話。「(住まい・勤務先ともに)都市部じゃないこともあって、日本人は私だけなんだ。あ、親日家だったり、日本に関心持ってる友達だったりは何人かいるよ。彼らは全員アジア人で、当たり前だけどコミュニケーションは常に英語。『これ日本語で何て言うの?』『この日本語はどういう意味?』とか訊かれることはあっても、そういう時以外、生活圏内で日本語を使う機会はゼロに等しい」。
なれど…いえ、もしかしたら“だからこそ”なのかもしれませんが、彼女が触れるエンタメは「9割以上が日本の作品」なんだそうです。
「私、もともと洋画への関心が薄いんだよね(笑)。まぁ、最初の頃は勉強も兼ねて結構観てたけど。『なるほど、こういう表現もあるんだ』とか、『字幕なしでどれくらい理解できるようになったかな?』とかさ。本も雑誌も英語のやつ沢山読んだし、今も仕事関連の本は原語で読むようにしてるよ。でもそれはぜ〜んぶ勉強目的。娯楽として楽しみたいのは邦画だし、読みたい小説も日本語。好きな作家さん(の小説)の英語版が出てたりもするから一応読んではみるんだけど、何か違うんだよね…。あぁ、翻訳の出来が悪いって意味じゃないよ。けど私は日本語が好きだし、『やっぱめっちゃ豊かだなぁ』と思う。英語を深く知ったからこそ、余計にそう感じるのかも」
彼女が感じる日本語の特徴は「混在」。
「漢字・ひらがな・カタカナの組み合わせが無限大で、あと、英語を筆頭に他言語が普通に混ざってる。なのに、トータルで見るとすんごい綺麗。よく考えると、日本語って自由度の高さが異常なんだよね(笑)。ある程度の制約はあるにせよ、書き手が好きなようにバランス取ったり、“表記の仕方”でいろんな意味を持たせたりできる。
例えば、『あなたをおもう』だけでもめちゃくちゃあるじゃん? 『あなたを想う』『貴方を想う』『貴女を想う』『あなたを思う』『アナタヲ想フ』『貴方を想ふ』etc. これ、単に表記が違うだけじゃなくて、主人公の気持ちとか性格、相手との関係性、時代設定…いろんなものの想像を広げられてワクワクするよね。映像作品でも、『今の台詞、文字に起こすならどういう表記だろう。この主人公だったら漢字っぽいよな〜』とか考えるでしょ? ま、私たちは元記者だし、そもそも文字が好きすぎるってのが大いにあるだろうけど(笑)」
あとは、「“英語に訳せない表現”も大好き」なんだとか。
「日本にいる時は無意識に使ってたけど、『いただきます』とか『どうぞよしなに』とかって、本当に素晴らしい言い回しだと思う。『揺蕩う』とか『木漏れ日』とか『朧月夜』とかの、響き&字面が美しい表現もめちゃくちゃ素敵。『胃がムカムカする』『頭がズキズキ痛む』とかのオノマトペ方面も面白いよね。極めつけは、何といっても自販機の『つめた〜い』『あったか〜い』。『HOT』『COLD』とは全っ然違うじゃん? つめたい・冷たい・冷、あたたかい・あたたか〜い・温かい・温…いろんな書き方あるけど、敢えての『あったか〜い』。そこにめっちゃ愛と工夫と情緒を感じるんだ♡ オーストラリアではお目にかかれないし、見かけると嬉しくなっちゃって、帰国したら毎回自販機の写真撮ってるもん(笑)」
そして。「日常的に英語を使うようになって気付いたことがある」そう。
「英語って、すごく抑揚つけて喋るんだよね。アクセント、表情、身振り手振り、全てがオーバーめ。でも、文字にするとかなりシンプル。日本語は逆で、喋る時は口も大きく開けないし抑揚もそんなにつけない。だけど文字になった途端に表情豊かで、特に私たちみたいな人間は個性が爆発しがち(笑)。ここは漢字、ここはひらがな、こう伝わってほしいからこっちは旧仮名字使い…とかの強いこだわりを持ってる。英語だったら『hear』と『listen』でそもそも単語が違うから、耳でも目でも分かりやすいけど、日本語だと『聞く』と『聴く』。音は一緒なのに字は違うことを、うちの旦那も『ややこしい』的なこと言うんだけどさ(笑)、私たちにとってはそこがいいっていうか、素敵だなと思ってるところなわけじゃん? 別にどっちが良いとか悪いとかじゃなく、ただ面白いっていうか興味深いなって。そんで、私は日本語っていう言語を操れて、心から『美しいなぁ』と感じられる大人になれたことを幸せだって思う。当然英語も好きだけど、やっぱり日本語が一番好きだなって、移住してから実感しまくってるよ」
ちなみに。先輩は、14年間という長い歳月、オーストラリアでの生活を(日本語のみで)ブログに綴っています。私は当ブログを運営して5年弱。後輩は、公開はしていないけれど丁寧な育児日記をつけているし、現在、出版社で鋭意バイト中(←何と!一番ライバル視していた雑誌のライターをしています・笑)。会社を辞めても職が変わっても、“「書く」という行為そのもの”をストップしている人は誰もいませんでした。そのことをとても誇らしく思ったし、「本当に好きなものって、そう簡単には変わらないんだなぁ」としみじみ感じました。
〆切があろうがなかろうが、仕事だろうがプライベートだろうが、私たちは書くことをやめられない。好きなこと、夢中になれること、「ずっと続けたい」と思えることがある。それを見つけられたという幸運に、心から感謝しています。ありがとう!