女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

「お見送り会」の全貌

少し前までの私は、“声”或いは“演技”そのものに集中したいから、推し声優さんたちのビジュアル情報を極力入れないよう努めていました。ですが、ここ数年の(顔出しを伴う)メディア露出増加により、「個人で出来る努力には限界があるし、“世の流れ”的なものに抗うことを、とりあえず一旦やめてみよう」と思い立ち、2022年度末、とある朗読劇に参戦。その舞台がとっっっても良かったので、以降も声優さんたちによる朗読劇をちょいちょい観に行っております。

選ぶジャンルとしては、不朽の名作だったりベストセラー小説だったりがほとんど。毎回、圧倒的な聞き取りやすさと素晴らしい表現力で、既読・未読にかかわらず、心から楽しませてもらっています。生で観ると、声の良さや響きの良さはもちろん、息遣いや間の取り方、共演者とのアイコンタクト等、ダイレクトに伝わるものがいろいろあってめちゃくちゃ興味深い。それに、俳優さんの朗読劇だとたま〜に発生する「え、今何て言ったのかな…。滑舌が悪くて聞き取れなかった」という事故も起こらないから、ストーリーがすんなり頭に入ってくるんですよね。朗読劇を観た後にその作品を読み返すと、“朗読してくれた声優さんたちの声”で延々脳内再生されたりするのもすっごく楽しい。


で。何作かの朗読劇を観劇し、声優さんたちのお芝居を生で観ることに慣れてきた…というか、「やっぱり生だと迫力も感動具合も全然違うなぁ」と気付いてしまった私は、先日遂に手を出しました。大好きなアニメ作品(しかも主演は推し声優!)の朗読劇に。


会場に着いてまず驚いたのは、これまで参戦してきた朗読劇との客層の違いです。今までは、作家のファン、作品のファン、声優のファン等が混在していて、年齢層や男女比はバラバラでした。そして、どの年齢層でも割ときっちり目の服装をしている方が多かった(作品の世界観や会場の雰囲気に合わせてのことかもしれません)。でも、今回はほとんどが女性客で、パッと見30代以下が多い印象。カジュアルだったり露出多めだったりいい匂い(笑)だったりして、全体的に華やかな感じがします。そして、開演を待つロビー内で交わされる会話の内容も未知のものでした。中でも衝撃…いえ、ダメージを受けたのはこれ。

「このアニメ観たことある?」

「ない。でも1話だけ観たわ、倍速で。一応予習しとくか〜と思って」

「私も〜。つまんなかったね」

「ねー。でも別にいいよ、◯◯ちゃんがカッコよければ」

「だよね〜。今日立ち位置どこかな? うちら側だといいなぁ」

「いっぱい顔面拝みたいよねぇ」

(*20代と思しき女性2人連れの会話より)


な、なるほど…。◯◯さんは確かにイケメン声優だし、彼女たちがどんな目的で観劇しようと“チケットを買って会場に足を運んだお客”に違いはないわけで、文句を言う筋合いはありません。ただ、自分が大好きなアニメをつまらないと目の前で言われ(せめて等倍速で観てから判断してほしい・泣)、「作品の朗読はどうでもよくて、つまりは声優さんの顔面だけが目当てってことなのですね」と知って、何やら切ない気持ちにはなりました。他にも「本当にいろんなお客さんがいるんだなぁ」と実感した会話は沢山あった。まぁ、これも現地に行ったからこそ聞けた“生の声”なので、いい経験といえばいい経験です。


しかしながら、始まってしまえばそんなことはすっかり忘れ、「わぁ、本当に◇◇(←キャラ名)がいる〜♪」「すごいすごい‼︎ だんだん声優さんたちがキャラそのものに見えてきた〜!」と心の中で大興奮。小説の朗読とは全っ然異なるギアを入れ、“キャラの声”と“そのキャラっぽい衣装や立ち居振る舞い”で作品世界へ思いきり没入させてくれます。いや〜、感動しました。「『キャラと完全一致』ってこういうことなんだぁ♡」と初めて体感できて嬉しかったし、今まで味わったことのない種類の高揚感を感じられてとっても新鮮だった。


あとは、これまで意識できていなかったけれど、「台本を持ちながらする芝居」の上手さにも感心しました。声優さんたちは、普段のアフレコでも“片手に台本を持ちながらマイクに向かって台詞を言い、かつペラッという音を出さずに台本をめくる”ことを日常的にやっている方々です。したがって、台本を持っているのに持っていない感じといいますか、多少動きをつけながら台詞を発したとしても、台本がブレたり落としそうになったりしないから安心して観ていられる。一方の俳優さんたちは日頃、台本を置いて(台詞を暗記して)芝居をするのが基本だからか、台本を持つ手に危なっかしさを感じてしまう方も意外といらっしゃるんですよね。それがないことが、こんなにも没入感と安心感をアップさせてくれるものだったとは驚きでした。


驚きはまだまだあります。主要キャスト5名(男性3名・女性2名)のうち、私がお顔を存じ上げていたのは2名のみ。うち1名は、「生で聴くと、テレビの声とは少し違って聞こえるな〜。でも素敵な声だな〜」と感じていたら、それもそのはず。なんと!人そのものが違っていました。どうやらレギュラーキャストのお一人が急病になられたらしく、代役の方は「急遽なのに引き受けてくれて、一生懸命練習して(本来の声優さんの芝居&声に)寄せてくれた」んだとか。大抵の朗読劇は、キャスト紹介的なことはナシで、幕が開き次第すぐに本編が始まります。よって代役云々の説明を受けたのは本編後だったのですが、ビジュアルを知らなかったために、朗読中は“人が違う事実”に全く気が付かなかった(汗)。プラス、違和感がなさすぎて別の方が演じているとは夢にも思いませんでした。その道のプロというのは、本当に本当にすごいですね。尊敬しますし、引き受けてくださったこと、そして見事役目を果たしてくださったことに感謝致します。

 

 

もう一つの驚きは、「お見送り会」の存在です。チケットをネット予約する際、注意書きのような感じで「本編終了後、アフタートークショー及びお見送り会がございます」と明記してあったのですが、アフタートークショーがあまりにも楽しみで、お見送り会のほうは当日まで失念していました。

本編終了後、20分ほどのトークショーがスタート。役ではなく素でお喋りするキャスト陣にほっこりし、「アニメの裏話も聴けたし、何だかものすご〜く得した気分♡♡♡」とニマニマ。ショーの終盤、「この後『お見送り会』がありますので、お時間許す方は参加していってくださいね」という推しの案内で、その存在を思い出したのでありました。「そういえば、予約サイトに書いてあったかも。っていうか、お見送り会って何だろ? 宝塚のトップスターが退団する時、ファン全員で囲んでお見送りする…みたいなやつかしらん?」。


結論から言いますと、ファンがキャストを見送るのではなく、ファンがキャストに見送られるイベントでした。思いきり逆でしたね(汗)。

説明が難しいのですが、お見送り会というのは、キャスト陣がステージ上に並ぶ→お客さんは自分の席からステージ前まで行き、1列目の方々から順にぞろぞろと歩いてステージ前を横切る。その際キャスト陣と手を振り合うことが可能、みたいなイベントです。例えが合っているか分からないけれど、昔動物園で参加した「赤ちゃんお披露目会」にちょっと似てるなと思いました。動物の赤ちゃんを見るために長時間並ぶ→自分の番が来たら2秒くらいお顔を拝む→まるでベルトコンベアーに乗せられているかの如く、わらわらと左から右へ進んで出口に追いやられる…的なあの感じでございます(笑)。


なお、私は最後列だったので、幸いというか何というか待機時間がそこそこ長かった。ゆえに、1〜2列目のお客さんの様子を見て「あぁ、お見送り会ってそういうことか!」と全貌を把握することが出来ました。直前の館内放送で、「キャストへの声掛け禁止」「ファンサリクエスト等のうちわ禁止」と言っていたから、要するに舞台の上側と下側で手を振り合うだけなのだけれど、それってつまり、お見送り会に参加したら、声優さんたちと確実に目を合わせることになるわけで…。う〜ん、どうするべきか。

推し本人のSNSはおろか、所属事務所のサイトすらもチェックせず、基本は作品を観たり円盤を買ったりして、遠くからひっそり応援するスタイルの私。よって、“推しの視界に入った上、ガッツリ目を合わせて手を振り合う”というのはかなりハードルが高い行為です。でも、キャストの皆さまがせっかく時間を取ってくれているんだし、何よりこんなにも楽しませてくれた方々に対して途中退席というのは極めて失礼な気が…。覚悟を決めた私は、「よし、目でお礼を伝えよう!」と決意。係の方に「最後列の方どうぞ〜」と呼ばれた頃には、迷いや戸惑いはなくなっていました。


が。大きい声では言えないけれど、満席ではなかったその日。中段くらいまではぎっしり埋まっているものの、後列になるにつれ、お客の人数が減っていきます。それを計算に入れていなかったのか、係の方は律儀に1列ずつ呼ぶので、18列目くらいからお客一人ひとりの間隔が開き気味に。私は最後列だったため、とりわけ人数が少なかった(恐らく前方列の半分以下)。加えてステージまでの距離が遠いこともあり、キャストの皆さまを若干お待たせするような形となってしまいました。その事実に焦りと申し訳なさを感じ、通路を小走りして大急ぎでステージ前へと向かいます。すると、一番左側の声優さんが「ゆっくりで大丈夫ですよ」ととんでもないイケボで声を掛けてくれたのです。その上、ステージ前にたどり着くまでの間、ずっと視線を外さずに見守ってくれているではありませんか。嗚呼、私は一体どうしたらいいのでしょうか。

〈ぎえぇ、すみませんすみません! 私なんぞのために、あなたの大切な大切な喉を使わせてしまって本当にすみません!〉←心の声


ラスト、一番右側で誰よりニコニコして&腰を屈めてファンと接してくれていた推しの前に到着した時には、私のライフはゼロどころかマイナス。背中に変な汗をかき、ひどく動揺したまま(多分目を泳がせながら)、これ以上ないほど小さな声で「ありがとうございました」とつぶやくのが精一杯。推しはギリギリまで目を合わせてくれて、満面の笑みで「どうもありがとう♪」と言いながらブンブン両手を振ってくれていたけれど、それに見合う態度が取れていたかと問われたら、自信は全くありません。もっと落ち着いて、爽やかに手を振りたかった。そしてちゃんと目を開いて、楽しかった気持ちを表情で伝えたかった(私は花粉症用の大きなマスクをしていたので、目元しか出ていない状態でした。口元が隠れている以上、目で訴える以外の方法が皆無・泣)。雑誌記者時代、握手会やファンミーティング等で数多く出会ってきた“推しを前に動揺しまくるファン”“めっちゃ挙動不審なファン”。当時はあまり分かっていなかった彼らの気持ちが、退職して3年強が経った今やっと、心の底から理解できたような気がしています。そんなわけで、初めてのお見送り会は、ちょっとほろ苦い思い出となったのでありました。


ちなみに。軽く調べたところ、声優さんのイベントでは、お見送り会というのは割とスタンダードというか、そんなに珍しいことじゃないみたいです。

今は、「この先も機会があったら参加して、出来ればリベンジしたい」という思いを抱えています。それは、“通常運転の私”で推しに会いたいとかじゃなくて、思いがけず出来た推しとの思い出が、あんなにもあたふたした状態だったことが、自分の中で少し寂しいんですよね…(泣)。ゆえに、可能ならば“最新の思い出”に書き換えたいという気持ちがございます。なれど、お見送り会目当てでイベントに行くのは違うと思うから、「再度機会に恵まれたらラッキーだな」くらい。あ、次に観る予定の朗読劇は本編のみなので、そちらはある意味気楽に足を運ぶことが出来まーす(笑)!