女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

言い得て妙

映画「箱男」(8/23公開)を観てきました。原作は、1983年に発表された安部公房氏の同名小説。出演は永瀬正敏さん、浅野忠信さん、白本彩奈さん、佐藤浩市さん、ほか。脚本はいながききよたかさん及び石井岳龍さん、監督は同石井さん。

 

    ↓↓↓以下、ネタバレを含みます↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 


学生時代に一度だけ原作を読んだことがあるのですが、率直に言えば、あまり意味が分からなかったし、「面白い」とも感じませんでした。私はもともと難解な小説が好みでないこともあり、安部公房作品は意識的に避けていたんですよね…(汗)。

なれどもある日、文学好きの友人から「そんなこと言わないで、試しに一回読んでみてほしい」と懇願され、彼女の本棚より「箱男」を渋々(笑)拝借。読了後、「正直な感想」を求める彼女に対し、「やっぱり私には難しかった。彼独自の世界観も、好きか嫌いかの二択だったら、悪いけど後者かもしれない」と伝えたところ、一瞬悲しそうでしたが「ちゃんと読んでくれてありがとう」とにっこり。「この人は本当に、心から安部公房作品が好きなんだな」と感動したことをよく覚えています。卒業以降お付き合いはありませんが、今年は“安部公房生誕100周年”なので、「◯◯ちゃん、今も安部公房LOVEのままでいるかしらん」と、時折彼女の顔を思い浮かべたりしておりました。


ゆえに、映画を観ようと思ったのも、彼女の影響といえばそうなのかもしれません。半ば強引に迫られて「箱男」を読んだおかけで、「あの世界観を映像化するのって可能なのかなぁ。一体どうやって?」と興味が湧いた。

結論を申し上げますと──


映画を観ても、小説の時と同様、「面白い」と思える要素は個人的にはありませんでした。それより何より、「どうしてこの配役なのか?」というのが気になって仕方なかった。

 

 

ここで、主要人物4名を簡単にご紹介致します。

◆ぼく(永瀬正敏)/大きな段ボール箱を頭からかぶって路上生活を送る“箱男”。その段ボールに覗き窓を開け、街ゆく人々をじっと見ている。葉子に導かれて贋(にせ)医者の病院へと出向く。元カメラマン。

◆贋医者(浅野忠信)/贋医者であり、贋“箱男”。軍医殿の名義を借り、ニセモノながら医療行為を行っている。戦時中は衛生兵をしており、軍医殿は当時の上官。内縁関係にある葉子を、軍医殿に度々差し出す。

◆葉子(白本彩奈)/贋医者のもとで働く看護師見習い。以前は貧しい画学生で、絵のモデルをして生計を立てていた。贋医者とは内縁関係。

◆軍医殿(佐藤浩市)/医師。戦時中に病を発症し、その苦痛から逃れるために麻薬を常用して中毒となった。自分の名義を貸して、贋医者に医療行為をさせている。様々な意味で倒錯的な人物。

 

映画のチラシ及びポスターデザインです。永瀬さん演じる“箱男”は、劇中この姿で走ったり戦ったり色々します。ちなみに私も人間ですが、この最終形態は全くもって望みません笑

 

箱男」は非常に難解な作品であり、今でもよく分かっていないのであらすじは割愛させていただきますが、スクリーンを眺めながらまず感じたのは“強烈な違和感”です。

実は今回、映画館に置いてあるチラシを横目で見て「あ。昔◯◯ちゃんに無理矢理(笑)読まされた『箱男』、映画化されるんだ。タイミングが合ったら観てみよう」とぼんやり思っただけで、キャスト陣のチェックまではしていませんでした。よって、主演が永瀬さんだと知ったのは映画が始まってから。

〈永瀬さんは好きな俳優さんだけど、確かもう還暦近かったはず。“ぼく”って全然もっと若いよね? 何で年齢設定ガン無視してるんだろう〉←心の声


原作を読んだのが四半世紀以上前なこともあり、年齢に関してはっきりとした記述があったかどうかは覚えていません(*Wikipediaには、“ぼく”は「戸籍の上では29歳だが、本当は32、3歳らしい」とありました)。ただ、文面から受けた印象として「“ぼく”ってそこそこ若い人だろうなんだろうな」と感じたことは覚えています。贋医者や軍医殿は彼より上の世代だろうけど、現在50歳の浅野さん、63歳の佐藤さんほど年齢を重ねているようには思えなかった。まぁ、それだけならまだ「主要人物たちの年齢、全体的に引き上げたってことなのかな?」と納得できたかもしれないけれど、葉子の登場によって不信感と嫌悪感がふつふつと…。

葉子役はオファーではなく、オーディションにての選出。葉子を演じる白本さんは現在22歳ですから、贋医者役・浅野さんとは28歳、箱男役・永瀬さんとは36歳、軍医役・佐藤さんに至っては41歳もの差があります。内縁関係にあったり、誘惑したり、視姦されたりする相手が、全員親子かそれ以上に離れているわけです。

今作はRG12指定で、ヌードシーンを含みます。裸ショットがあるのは、永瀬さんと白本さんのお二人。服を着ていても「“うら若き女性×おじさん”の組み合わせ」という印象がかなり強いのに、生まれたままの姿になったら、22歳と58歳というのは相当キツイ(ぴちぴちボディーとゆるゆるボディーの男女が抱き合うシーンを、映画館の大画面で見せられることを想像してみてください…。あ、別に濃厚な絡みとかではなく穏やかなハグですけどね)。プラス、鷹医者との関係性、及び軍医殿が求める変態的な行為も、全部が全部、はっきり言ってもんのすご〜く気持ち悪かった。上映途中で「帰りたい」と思った映画は初めてかもしれません。もし端っこの席だったら、確実に離脱していたことでしょう。


座席の都合上、帰るに帰れず、やむなく最後まで鑑賞。後日、どうにも気になり調べたところ、「箱男」は1997年、石井監督のもとで映画化が正式決定していたんだそう。ところが、諸般の事情でクランクインを目前に全てが頓挫し立ち消えに。その時キャスティングされていて、撮影地・ドイツにまで渡っていたのが永瀬さんだったと。大体の経緯を知り、ようやく合点がいきました。

 


石井監督の「箱男」に対する情熱や執念が、27年間途絶えなかったことは純粋にすごいと思います。でも、そこまで思い入れのある作品ならば尚更、設定を守ってほしかった。仮に私が原作小説の、或いは安部公房作品のファンだったら、さらに切なかったり“コレじゃない感”が強かったりしただろうな…。

27年前、永瀬さんは31歳でした。役柄の年齢的にも、「箱男」という作品が持つアングラ的な空気感にも、きっとぴったり合っていたことでしょう。ですが現在の彼は58歳。昔も今も格好いいけれど、俳優さんには各々“その年代にマッチした役”“その時期だからこそ演れる役”というのがあると思います。今回の配役は、27年前のことありきで決まったであろうことが予想できますが、それって一体全体誰が喜ぶんですかね? 同じく当時も出演予定だったという佐藤さんを含めて、本当の本当に、“現時点で一番相応しいキャスティング”だと思っているんでしょうか。

もしも私が監督なら、当時のキャスト陣に筋を通した上で、「この時代にベストだと思う俳優たち」をセレクトし直します。だって、たとえ全く同じメンバーを集めたとしても、当時撮りたかったものを、その面子で27年後に撮るのはどう考えても不可能ですから。それに、世相も自分自身も1997年とは明らかに変わっているわけだし、“今届けたいもの、表現したいもの”が当時と同じだとは到底思えない。鑑賞中、「まるで27年前で時が止まっちゃってるような雰囲気だなぁ。キックボードだの自撮り棒だのを登場させてるけど、単に小道具として使ってるだけで、“現代っぽさ”みたいなものが全然伝わってこない」と思ったのも、そのあたりのズレを強く感じたからかもなのかもしれません。

あとは、本編とは関係ありませんが、浅野さんが発する台詞の聞き取りづらさに驚愕しました。ところどころ、「え、今何て?」と言いそうになってしまった(笑)。日頃、声優さんたちのしっかりした発声に慣れていることもあって、言葉が聞き取りにくい=作品世界に入り込めないというのが結構なストレスでした。何と言ったのか考えている間にも物語はどんどん先へ進むから、「これじゃあ出来る役が限られるのでは?」と要らぬ心配までしてしまいましたよ…。


さて、エンドロール後。斜め前の席に座っていた、20代と思しき女性二人連れが、帰り支度をしながら小さな声で話しています。

「やっと終わった、疲れたぁ」(with大欠伸)

「何かさ、脱ぐシーンやたら多くなかった?」

「それ思った! 私は何を見せられてるんだろって」

「ほんとだよね、2時間めっちゃ長かった。つら〜」

「ねー。早くカフェ行こ♡」

「行こ行こー♡♡♡」


ここまで長々綴ってきたけれど、映画「箱男」の感想として、これに勝るものはないかもしれません。

「2時間めっちゃ長かった。つら〜」

本当にその通りすぎます、優勝です(笑)。彼女たちの的確なジャッジと切り替えの早さに元気をもらった私は、さっきまでの沈んだ気持ちはどこへやら。「私もどっか寄って帰ろ♪」と足取り軽く映画館を出たのでありました。どうもありがとう、あの日の2人組!

 

こちらは原作小説「箱男」(新潮文庫)の表紙です。なお、安部公房氏は1924年3月7日生まれで、今年生誕100周年を迎えました。それを記念して、未完の絶筆「飛ぶ男」が刊行されたほか、これまで紙のみだった既刊作品(代表作/「壁」「砂の女」等)の電子書籍版も解禁。2024年は、安部公房ファンにとって大変喜ばしい年と言えそうですね♪