女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

説明不足

ドラマ「買われた男」の第8話を視聴しました。私はこの8話に関して、「説明やら配慮やらが足りてない気がするな〜」と感じたので、いくつか記しておこうと思います。


今回のお客さんは、トランスジェンダーのハル(杉江大志さん)。

彼は生物学的には男性だけれど、自分のことを女性だと認識している人物です。お店にメールを送る際、「ロコミを見て予約しました。MtFです。大丈夫でしょうか?」と綴っているのですが、そもそも女風は“女性用”の風俗なわけで、心はどうあれ生物学的に男性なのであれば、「利用できない」と考えるのが妥当でしょう。

あくまで私調べだけれど、トランスジェンダーの方の場合、レズビアン風俗やゲイ風俗のほうが、女風よりは幾分受け入れの余地があるように感じております。そのあたりは、お店として「全NG」にしているところもあれば、「基本NGだが、中にはOKなセラピストもいる」というケースもあって結構バラバラみたいなので、まずは直接問い合わせてみるのが一番よいかと思います。


ところで。皆さまは、MtFというワードに馴染みはございますか? 私は“知らない言葉に出会ったら即調べて、次からしっかり使えるようにする”という性癖(笑)…いえ習性があるのと、実際トランスジェンダーの友人がいるので知っていたけれど、一般的には“説明がないと分からない言葉”の一つだろうと予想致します。

ドラマ内における“説明”の部分はこうです。


スマホ画面にて、新規客の予約内容を確認しているセラピスト・ヤマト(瀬戸利樹さん)。以下は、彼と先輩セラピスト・龍一(久保田悠来さん)との会話です。

ヤ「僕、MtFって言葉自体、正直初めて知って」

龍「トランスジェンダーは?」

ヤ「聞いたことありますけど…」

龍「分かりやすく言うと、生まれた時の身体と心の性別が違う人たち。で、MtFは、生まれた時に男って割り当てられたけど、性自認は女って人だね」


龍一の台詞を聞いた私は、「まぁ合ってるけども十分じゃないな〜」と思いました。

MtFというのは、“Male to Female”の略です。身体的性は男性だけれど性自認は女性で、文字通り“男性から女性へ”移行する方々。基本的には、外科的手術を望んでいるか、既に終えられている方々のことを指すと言われています。なお、逆(女性から男性へ)はFtM=Female to Maleです。


その前に。セクシュアリティを決める要素は、大きく分けて合計4つ。

①身体的性/生まれながらに割り当てられた、生物学的な性

性自認/本人が思う、自分自身の性

性的指向/どのような性に対して恋愛感情や性的欲求を抱くか

④性表現/自らをどのような性として表現したいか


MtFについて考える時、実は必要となる要素は①②のみで、③④は関係ありません。

施術を前にし、ハルは「男の人とこういうことするのは初めて」だけれど、「女の人とは昔一度だけしたことがある」とヤマトに伝えます。

「相手は仲の良い友達で、好きって言ってくれて、自分も『この子なら恋愛的に好きになれるかも』『普通の人たちみたいに付き合えるかも』って思った。でも、いざするってなって、服を脱いで、その子は曲線のある綺麗な身体なのに、私は違って…。その子に触られて、反応する自分もむちゃくちゃ嫌で、結局途中で断って、その場で別れた。『男が好きなの? 私じゃ無理?』って泣きながら訊かれた」

これは、相手の女性もハル自身も、なかなかに辛い体験だったことでしょう。


ハルは、普段は男性っぽい服装をしているけれど、本当はロングヘアにスカート、カラフルなネイル等、フェミニンなファッションが好み。つまり性表現は女性なのだと思います。経験こそないものの、恋愛対象は恐らく男性。「親が体を壊しちゃって…。長男だから店を継いでほしいって言われた」そうで、その運命には抗えない様子です。だから、田舎に帰る前に“良き思い出”として、男性から抱きしめられる喜びだったり、温もりだったりを感じたかったのかもしれません。そこで頼った先が、女風のセラピストだった。


自分のことを「トランスジェンダー」だと言ったり 「MtF」だと言ったり、表現を統一していなかったハル。よって、そこに対するこだわりはあまりなく、どちらの言葉も“身体的性と性自認が一致していない”という広い意味で使っているのかなと感じました。一方私は、トランスジェンダー=外科的手術までは望んでいない人、MtF及びFtM=外科的手術を望んでいるまたは終えている人、と認識していたため、ドラマを観ていて「彼、両方同じ意味で使ってるよね⁉︎」と驚いてしまった(*トランスジェンダーの友人に尋ねたところ、「当事者以外と話す時は、『トランスジェンダー』っていう表現のほうが伝わりやすい場合も多いから、敢えてそっちを使う人もいると思う。まぁケースバイケースなんじゃない?」との返事でした。なるほど、確かに!)。

 

 

驚いたといえば、もう一つ。


ドラマの終盤。再びヤマトと龍一が会話している場面です。

龍「ヤマトに新着のロコミ届いてるよ。『心からの理解者が増えたことが、何よりの支えになりました。ありがとう』だって。ヤマトはAlly(アライ)として、強い味方になったんだな」

ヤ「いろんな人の心の受け皿になるのが、セラピストですから」

 

先日の記事「宣言しない宣言」で書いた通り、アライというのは、LGBTQ+の当事者たちに共感し、寄り添いたいと考え、支援する人たちのことを指しています。これもMtFと同様、“説明がないと分からない言葉”だと思うのですが、アライについては台詞での説明も、文字(テロップ等)による注釈も一切なかった。このことにかなり驚きました。率直に言って、「いやいや、ノー説明で流せるほど浸透してるワードじゃないでしょう。『アライ』っていう音だけを聴いて、それが何を指すのかパッと分かる人って少ないんじゃないかなぁ。このテーマを掘り下げるなら、最後まで責任持ってちゃんと掘り下げてほしいんですけど…」と思ってしまった。


説明なしで“未知なるワード”を突如放りこむと、受け手側に「自分とは遠い世界の話」「何となく面倒くさそう」と感じさせてしまったり、「教える気ゼロですか? だったらこっちも学びません」「『その界隈の人にだけ伝わればいい』という意思がおありで?」と思わせてしまったりする可能性がぐんと高まります。長年雑誌を作ってきた経験上、これは明確に分かる。私自身は「初めまして」の単語は必ず調べるけれど、テレビもしくは配信で観ている視聴者はそうでないことのほうが多いだろうし、発信する側の意識として、“誰が見ても分かるように制作するよう努める”のは当たり前だと思うんですよね。良質なコンテンツが溢れ返る現代において、分かりにくいもの、不親切なものを観続ける視聴者が大勢いるとは考えにくいです。

期待して視聴を始めた同ドラマでしたが、私が「そこそこ良かった」と感じたのは第1話のみ。正直、あとは惰性で観ていました(笑)。まぁ勝手に期待したのはこちらなので文句を言う筋合いはないけれど、8話が決め手となって完全離脱したことを、ここにご報告致します。

そう考えると、やはりNHK制作のドラマはよく出来ているというか、安心して観られる作品が多いなぁと感じます。マイノリティを扱う作品の率で言うと、NHKは他局に比べてずっと高いように思いますが、大抵説明や考証がしっかりしていますからね〜。そっちに慣れてしまうと、作りの粗いドラマに不満を抱きやすくなるのかもしれません。


今さらですけれども、今期視聴しているドラマは「燕は戻ってこない」(制作・放送=NHK)、「アンメット」(制作=カンテレ、放送=フジ)、「買われた男」(制作=テレビ大阪、放送=テレビ大阪TOKYO MXBSテレ東、ほか)の3本です。こうやって並べてみると、この素晴らしい作品2つと「買われた男」を比較するのは酷というか、土俵自体が違うような気がしてきました…。何かすいません…(汗)。