女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

咄嗟の語彙力

約1ヶ月前、妹のパート先が変わりました。美容系の接客業で、平均週3日勤務というのはこれまでと同じなのですが、「お客さんの層はかなり違う」んだとか。「セレブばっかりってわけじゃないけど、お金に余裕のある人が多い。今まで(勤めていた店舗の客層)はギャルメインだったから、私からすると言葉遣いが難しくて…」と少々苦労している様子です。


妹は、私とは似ても似つかないタイプです。幼い頃より「顔も性格も全然違うね」と周囲から言われ続けてきましたし、我々自身もそう思っています。

どう違うかと言いますれば、私は楽観的、文化部一筋、好奇心旺盛で「嫌悪感がなければ何事もやってみる」派。妹は悲観的、運動部一筋、見た目はイケイケだけれど中身は慎重派…といった具合。子供を産もうがアラフォーになろうが、好きな服装や髪型(露出多めでタイトな服&巻き巻きロングヘア)を貫く彼女のことを、私は「いいねぇ♪」と思っているけれど、同時に「初対面では誤解されやすいだろうな」とも感じています。実際は料理上手なのに、大抵長くて派手目のネイルゆえ、「ちゃんとご飯作ってる?」的なことを言われがちですしね。

 

その外見に加えて、彼女は何というか、カジュアルとフォーマルの切り替えがあまり上手ではありません。難解な単語は数多く知っているにもかかわらず、“仕事で求められる言葉遣い”のバリエーションが少なかったり、「その場の瞬発力とか対応力とかが足りない」みたいなのです。確かに、何においても“臨機応変な対応”は不得手と言えましょう。その代わり、下調べやシミュレーションが十分な場合は、最高に心強い相棒となりうるんですけどね(独身時代、旅先等で散々お世話になりました♡)。

さて。その日来店したのは、店長さん日く「長く通ってくださっているお得意様」。でも、妹が担当させてもらうのは「初めてのこと」で、ガッチガチに緊張していた模様。お得意様の情報は、「事前に共有させてもらって、全部覚えたつもりだった」そうですが、「いざ接客したら、想定外のことが起きて頭が真っ白になっちゃった」。対応を誤った際、妹の口から咄嗟に出たのは「申し訳ありません! あの…忘却してしまって…」という台詞だったんだとか。「『忘却してしまった』っていう言い回しは斬新だなぁ。そうそう思い付く台詞じゃないよ」と感心していたら、本人はめちゃくちゃ凹んでいるではありませんか。


「…え? もしかして、こっぴどく怒られちゃった感じ?」

「ううん。店長もお客さんも笑って許してくれた」

「な〜んだ、びっくりした。じゃあ何をそんなに凹んでんの?」

「自分の無知さに凹んでるんだよ…。ねぇ、お姉ちゃんだったら(お得意様に)何て言った?」

「第一声? その状況だったら、『大変失礼致しました。失念しておりました』かなぁ」

「店長と同じだ。やっぱすぐ分かるんだね。何で分かるの? 普通に生活してて『失念してた』って使わなくない?」

「う~ん…私は使うけど、一般的にどうなのかっていうのはよく分かんない。でもまぁ、今回覚えたわけだから、次からは困らなくて良かったじゃん」

「そりゃそうだけどさぁ。思ったんだけど、どんな仕事するにしても、国語ってめっちゃ大事だよね。将来◯◯(←姪っ子の名前)に苦労させたくないから、国語好きな子に育ってほしい。お姉ちゃん、小っちゃい時からいっぱい本読んでたし、作文コンクールとかでも賞獲ってたじゃん? どうしたら国語好きになるの? 方法教えてよ」


なお、姪っ子は現在、小学校低学年。ざっくり言うと、音楽とダンスが得意なのですが、今は明確に「この教科が好き!」みたいな気持ちはまだ芽生えていない状態です。

仕事でなくとも…というか幼少期や学生時代から、友達付き合いであれSNSであれ、或いはテストの問題文であれ、国語力というのは確実に必要だし大切でしょう。個人個人が複数のメディアを持つ現代においては、読解力や語彙力、そして“思いを正しく伝える力”は、ひょっとしたら我々が子供だった時代よりもずーっと問われるかもしれません。なれど、言葉や文字というのは、親が「好きにならせよう」と仕向けて好きになるものではないと、個人的には思います。自分から関心を持たない限り、夢中で学習したり吸収したりするのは恐らく難しい。

もんのすご〜く変態っぽいので(汗)妹には伝えていませんが、私の愛読書の中には、各種辞書だったり「記者ハンドブック」(共同通信社刊)だったりが存在します。もちろん「出版社で仕事をする上で必要だったから」という理由もあるけれど、辞書を“一冊の本”として認識し、片っ端から読み始めたのは遥か昔。言葉そのものや表記の仕方等に強い興味を抱いていないと、なかなかそういう子供にはならないと思うんですよね。そして、「姪っ子にもそんな感じに育ってほしいか?」と問われたら、答えはノーです(笑)。普通に日本語が操れるレベルに到達すれば、それで何ら問題ないと思う。今後、もし興味が湧いたら自発的に勉強するだろうし、小さい時に無理強いすると、かえって国語を遠ざけたり避けたりする可能性も拭えません。万一そうなってしまったら、それこそ本末転倒です。

 


時は少し進みまして、先週末の昼。よく利用する某ネットスーパーさんが、いつものように配達に来てくれました。ただ、“ちょっとした違和感”が終始あった。

指定した時間にインターホンが鳴ったので、モニターを見ながら「は〜い」と応答したら、「こんにちは、スーパーです」とはじめましてのお兄さんがにっこり。日頃はきちんとスーパーの正式名称を述べた後、「ご注文の品をお届けにまいりました」と脱帽しつつ挨拶してくれる配達員さんが多いため、この時点で若干動揺。「新人さんなのかな?」と思い、ひとまずマンションロビーのオートロックを解除。しばらくするとドア横のインターホンが鳴り、扉を開けたら再び「こんにちは」と笑顔。利用開始から数年経ちますが、全身真っ黒お洒落コーデ+ノーマスク+ノー帽子、というのは初めてのパターンです。あと、モニター越しでは分からなかったけど、対面したらこれまでの方々と比べて飛び抜けて若いことに気付きました(多分二十歳前後)。

「荷物、結構重いっすよ。持てますか? 手離して大丈夫そうです?」

「はい、これで作業完了っすね」

「そうだ! ここに名前書いてほしくて」(お受け取りのサインをこちらにお願いします、の意)。


おぉ、かつてないほどのフランク&フレンドリー加減だ(笑)‼︎ でも、柔らかい物腰且つ清潔感溢れる青年だったせいか、印象自体はとっても良かったです。一生懸命働く姿というのは、老若男女皆等しく美しい。だがしかし。仮に注文した先が庶民派スーパーではなく高級スーパーだったら、或いは彼がアラサー以上だったら──? 「その言葉遣いや立ち居振る舞いで、上司の方から何も指導されないのだろうか?」と疑問に思った確率はかなり高い。

 

我が妹は、若く見えるけれども間違いなくアラフォーです。私の中で「忘却してしまった」という台詞が面白すぎて気に留めなかったものの、ネットスーパーの彼が去った後、冷静になって考えてみました。熟考した結果、妹の言うように「自分の無知さに凹む」のが正解のような気が…。

妹はあれから、日々「接客関連の本を読み込んで努力している」そうですが、言葉遣い…中でも“咄嗟に出てくるフレーズ”というのは、残念ながら一朝一夕でどうにかなるものではないんですよねぇ。私が協力してあげられることも特に思い付かないし、これはもしや予想以上に深く、難しい問題なのかもしれません。愛読している辞書たちを彼女に貸したとて、突如語彙力がアップしたり、瞬発力が鍛えられたりするわけでもないしなぁ。うーん、どうしたらいいのか全然分からない…。困ったなぁ。