女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

非情ですが、何か?

過去にも何度か書いている通り、私は16年間、エンタメ系雑誌の記者をしておりました(2020年秋まで)。手掛けていたのは、普通に書店やコンビニに並ぶ月刊誌で、メインとなる取材対象者は歌手及び俳優。インタビューやライブレポ・舞台レポ、密着取材等で継続的に彼らと接する上、写真週刊誌やゴシップ誌と違って、“至極真面目な記事を書く媒体”“新曲の宣伝やイベント開催告知等をきっちり出来る媒体”として認識されていたため、各方面と良好な関係を築けていたように思います。


私はジャンルを問わず幅広い音楽を聴いて育ちましたし、学生時代は演奏する側でもあったので、トータルの音楽的知識としては、そこそこ多く持っているほうだろうと予想できます。ただし興味があったのは歌声やメロディー、歌詞等、いわば“楽曲の本質”部分。歌手達を取り巻く業界そのものに対しては関心が薄く、内部事情についても詳しくありませんでした。


時は遡って、2004年春。初出勤日。社内を案内してくれつつ、教育係の先輩が尋ねてきます。「ところで記憶力いいほう? 悪いほう?」。

「えっと…自分ではいいほうだと思ってます」

「それはよかった! じゃあ、今後担当してもらう予定の歌手達の名前をフルネームで、もちろん表記も一字一句正確に覚えてもらわないといけないから、後で資料渡すよ。あ、所属事務所名とレコード会社名も一緒に覚えてね。経歴とか代表作とかは後回しでいいから、事務所とレーベルを先に覚えて。じゃないと仕事にならないんだよね〜」


芸能界の成り立ち・仕組み・付度・圧力・しがらみ・暗黙のルール等を何一つ知らなかった当時の私は、「え?  “取材対象者の基本情報を頭に入れておかない”なんて、そんな選択肢ないと思うんだけど…。事務所やらレーベルやらは、それこそ資料で確認すればいいのでは?」などと甘っちょろいことを考えていたわけであります、ハイ(笑)。

まぁ、圧力やらしがらみやらを抜きにしても、日程調整や原稿の確認等で、頻繁に連絡を取るのはご本人ではなくマネージャーさんやプロモーターさんですから、瞬時に“誰々さん=◯◯所属”と出てこなくちゃあ仕事にならない、というのは確かにその通り。あとは「彼、誰々さんと同じ事務所だったな。この前『普段から仲良くしてもらってます♪』って言ってたし、“先輩・後輩ぶっちゃけ対談”的な企画出してみるか〜」等、誌面作りにも役立ちます。おかげで、退職した今でも「この人は◯◯所属」というデータが頭から抜けず、純粋に“ご本人のお名前のみ”で歌手や俳優を見ることが出来ないカラダになってしまったのでありました…(泣)。


それはさておきまして。

手掛けていたのは月刊誌ゆえ、年間で表紙を飾れるのはたった12人(もしくは12グループ)。通常、編集会議で表紙候補を各々出し合って議論・検討の上決めるのですが、年に何回かは“既に決まっている”ことがありました。社長や編集長より「次号は誰々で」と指示があれば、広告絡みであれ圧力であれ、平社員は「そうですか、分かりました」と答えるのみ。私達は会社からのお給料で生活しているわけだし、そもそも「何でですか⁉︎ そんなのおかしいです!」とも思わなかった。なぜかと言うと、最初にそう習ったから。


先輩方には、芸能界の大まかな仕組みや、絶っっっ対逆らってはいけない事務所・団体の存在、「長いものには巻かれておいたほうが得策」等々、実に様々なことを教えていただきました。紅白歌合戦に“事務所枠”があること、「逆らって睨まれでもしたら、ウチなんて媒体どころか会社ごと潰されちゃう」ことには多少驚いたものの、だからといって失望したりはしなかったように記憶しています。冷静に「なるほど〜、そういうもんなんだ。じゃあ私も上手く立ち回ろう」くらいのものでした。

 

 

そして現在。連日のように、ジャニーズ事務所の諸々が報道されています。故・ジャニー喜多川氏による数多の性犯罪に対し、「許せない!」と憤る気持ちも分かりますが、それと“異様なまでのジャニーズ叩き”は別問題だと感じています。

セクハラをはじめ、パワハラや圧力、付度等はジャニーズに限らず、他事務所でも全然あります。でも、芸能界…というか、あらゆる業界を完全にクリーンにするためには、どこか一箇所ではなく根幹から変えていかなければ無理な話だと思う。加えて現実は、クリーンを目指したところで性犯罪や癒着、搾取の類が“ゼロにはならない”ことを、世界の歴史が証明してしまっています。たとえジャニーズ事務所がこの世から消滅したとしても、圧力や忖度自体は消滅しません。だって、もともとジャニーズだけの問題ではないのだから。


人間というのは、基本的に自分が一番かわいいし、自分の生活を何より大事にする生き物だと思っています。私もそうです。“今ある幸せな暮らし”を投げうってまで、組織の改革を試みたり、何かを告発したりできる人はそれほど多くありません。プラス、“正しいことをした人が報われる”ことも、私見ですがあまり多くないと思う。


よく、「いじめを見て見ぬふりしたら、それはいじめをしてるのと同じこと」的な発言を耳にするけれど、私は「いやいや、同じなわけないでしょうが」と感じています。仮にアクションを起こしたとて、いじめが無くなる保証などないわけだし、下手したら自分がターゲットにされてしまう可能性だってある。今回の件も同様です。

「(ジャニーズ所属のタレント達は)性被害を知っていたのに知らないふりをした。後輩を見殺しにした」

「ジャニーが生きている間に告発すべきだった。死んでからでは遅い」

「マスコミも知っていたはず。奴らも同罪だ」…etc.

こう息巻いている人達の中に、実際その立場になったら行動を起こせる人はどれくらいいるでしょうか。 


私はかつて打ち上げの席で、女性タレントや女性スタッフが“いろいろな権限を持つ人”(←全員40代以上の男性でした。ご参考まで…)にセクハラされている場面に遭遇し、何度か助け舟を出したことがあります。されど、あれはいずれもしがらみのない相手だったから、或いはこちらのほうが立場が上だったからこそ取れた行動です。もしも“逆らってはいけない事務所”関連だったら、迂闊に口など挟めません。たとえ「非情だ」と言われても、私は火中の栗をすすんで拾いたいとは全く思わない。彼女達のことよりも、毎月お給料をくれる会社のほうが、日々情熱を注いで作っている雑誌のほうが、そして“自分自身”が何よりも大切だからです。


己を最優先して生きていくことに、今も昔も迷いはありません。それぞれが必死に自分の人生を生きているわけだし、「保身に走って当たり前じゃないか」とすら思います。もちろん、不正を暴いたり告発したり、真っ向から権力に立ち向かったりする方々は大変立派だし、純粋に凄いと思う。ただ、権力というのは目には見えないけれど確実にそこにあって、身の毛もよだつほど恐ろしいものです。立ち向かった結果、平穏な暮らしはおろか、命まで奪われてしまうケースだってあります。

楽しいばかりの毎日では決してないけれど、私はまだまだ現世を生きていたい。だから、積極的に黄泉の国へ近づくような道は、これから先も選ばないだろうと思います。