女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

学びの恋〈後編〉

 

 

行為中は電気を消さない、ガラス張りのお風呂を最大限活用する、とんでもなく卑猥なことを言う、くらいはさほど意外ではなかったけれど、まず驚いたのは営みのトータル時間の長さです。基本的に毎回2時間以上、最大で4時間掛かったこともありました。次に驚いたのが体位。一晩で5~10パターンくらい体位を変えるため、「お主、さては四十八手の使い手だな?」といつもワクワクしておりました(笑)。

 

変わったプレイも大抵は受け入れましたが、拒否したものもあります。その一つが「友達と話しながら」というもの。行為中に彼の友達から電話がかかってきたのですが、躊躇うことなく「もしもし」と出てびっくり。「え、今? 今はね~、彼女とセックスしてる」と答えてさらにびっくり。「彼女、今紹介しようか?」と携帯を渡されたため、一言も喋らず電源を切りました。もう一つは、「行為中に写真を撮る」というもの。ある時、不意打ち&無許可で写真を撮られたので、すぐさま行為を中止。「そこに正座して」と裸のまま座らせ、懇々と説教しました。「していいこと、ダメなことがある。あなたは2つダメなことをした。一つは『撮っていい?』と確認しなかったこと。もう一つは私がイヤだと思うことを、自分は嬉しそうにやっていること。初めてあなたを軽蔑します」。もちろん、データは目の前で削除させました。

 

どんなに強く想い合っていたとしても、私は裸体や行為の様子を撮影するのは絶対にイヤだし断固拒否します。行為に身が入っていない感じがするし、「そんなもんは己の脳裏に焼き付けろ!」とも思う。もし関係が上手くいかなくなった時には、リベンジポルノの可能性だってあります。そうでなくとも「世に出せない写真を相手が持っている」という事実自体、精神的なダメージが大きい。後日彼に会った際、前述の内容を伝えた上で行為に及び、見せしめとして不意に彼の写真を撮りました。「これは本当にしちゃいけないことですよ」と念を押すためです。「今、写真撮られてどんな気持ちだった? 分かったら、こういうこと二度としないで。死ぬまでね」「よく分かりました…。ごめんなさい」。

 

このように鼻をへし折ってやったこともありますが(笑)、関係的にはすこぶる良好。いろいろな意味で刺激し合い、日々は楽しく過ぎていきました。

 

変化が訪れたのは、交際して8ヶ月ほど経った頃。“女の勘”って本当にあるんですね。メールのやり取りでも電話でも、彼が“何となくそわそわしている”ことを察知。そして彼のマンションへ行った時に確信しました、「私じゃない女性がこの部屋に入ったな」と。女性用のアクセサリーが落ちていたとか、残り香があったとかではありません。Tさん自身は気付いていないのでしょうが、玄関で迎え入れてくれた時、彼の目がほんの少し泳いでいたのです。いつも自信満々で、まっすぐに相手を見据えるその目が、一瞬だけ私の顔色を窺うような眼差しだった。ちっとも彼らしくない。買ってきたケーキを食べながら、単刀直入に「ねぇ、浮気した?」と訊きました。Tさんは、「えっ⁉︎ 何だよ急に」と分かりやすく動揺しています。彼が否定も肯定もしないうちに、「いつ?」と再質問。

 

「いつって、何が⁉︎」

「浮気した日。もうバレてるよ」

「えっと、あの…ごめん。1週間前」

「どこの人?」

「飲み会で知り合った人。でもしてないよ、何もしてない」

「この部屋に上げたんだよね?」

「すごい酔っ払ってたから。終電ないし、お金もないっていうから」

「その人のこと好きなの?」

「違う、好きとかじゃない。それに『俺彼女いる』ってちゃんと言ったよ」

「でもしたんでしょ?」

「してない」

「嘘が下手だね」

「してないよ」

「私の目見て言える?」

「…ごめんなさい」

 

こういう時の返しって、何が正解なんでしょうね。「たとえ裸で抱き合っている場面を見られても、『誤解だ、何もしてない!』と言ったほうがいい」「素直に白状して、許してもらえるまで謝り続けたほうがいい」など、様々な意見があろうかと思います。でも、生まれて初めて浮気された(或いは浮気されたことに初めて気付いた)私が感じたのは、全ては“浮気された側”の気持ち次第かなということ。された側が、した側を許す気があるかどうか。相手との関係を、その後も続けたいと思うかどうか。

 

この時の私は、「仮に土下座されたとしても、泣いて謝られたとしても、今までと同じように付き合うのは無理だ」と感じました。彼の部屋へ行く度「ここで浮気したんだ」と思ってしまうし、「またするんじゃないか?」と疑ってしまう。そんな生活は、きっと楽しくない。だったらきっぱり別れたほうがいいなと思い、彼に告げました。「私たち、もう終わりだね。さよなら」。

 

翌朝。駅までの道を、初めて手をつないで歩きました。彼は「恥ずかしい」と言って一度も外で手をつないでくれなかったから、あれは嬉しかったなぁ。地下鉄に乗ってからもずっとつないでいたけれど、会話はなく、お互いうつむいたまま。私の降車駅が近づいてきたので、やっと顔を上げて「今までありがとう、楽しかったよ。元気でね」と伝えました。ものすごく意外でしたが、彼は泣いていました。「俺も楽しかった、ありがとう。本当にごめんね」と言い、降りる直前、頬にキスをしてくれました。最初のキスのように、優しいキス。私は振り向かずに改札を出て、駅構内のトイレへ直行。こらえていた涙が、一気に溢れ出しました。「彼のこと、好きだったのにな…」。

 

Tさんが犯した“一夜の過ち”に、納得は全然していないけれど、彼に出会えたこと自体はすごく良かったし感謝もしています。彼のおかげで人として成長でき、視野も広がりました。そして今、Tさんとは友達に戻っています。つまるところ、私と彼には“友達”という関係が一番合っているのかもしれません。20代の頃は「元彼と友達になるなんて…」と思っていましたが、今は相手がそう望めば友達に戻れるし、連絡も普通に取れます。

 

ただし夫への配慮として、“その友人と、かつては恋人同士だった”という事実を悟られず、きちんと墓場まで持っていくことは必須です(私の中で)。今はただの友達でも、“昔そういう仲だった人”と連絡を取り合っているというのは、決して気分の良いものではないでしょうから…。もちろん、お互いそう若くないので、それなりに過去があって当然です。夫が「知りたい」と言えばかいつまんで話しますが、訊いてこない=知りたくないということでしょう。それは私も同じ。夫はバツイチのため、離婚理由や“前の結婚から学んだこと”等は初期の段階で尋ねましたが、それ以前の恋愛については知る必要がありません。私たち夫婦にとって、大切なのは「今」と「未来」だと思っています。