女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

“慣れ”と“自己防衛”

20日、俳優・藤木孝さん(80歳)が自宅で亡くなっているのが発見されたとの報道がありました。今月14日には、女優・芦名星さん(36歳)も同じく自宅で。7月には俳優・三浦春馬さん(30歳)が…。3人の共通点は、自死とみられること、ドラマ「ブラッディ・マンデイ」に出演していたこと。以前にも書いたけれど、我が夫は同ドラマで三浦さんの演技に魅了されて以来、彼の作品を好んで観ていました。だから、共演者お二方の悲しいニュースが続き、今は目に見えて落ち込んでいます。私は思いきりポジティブ思考&楽観的ですが、夫は真逆で、物事を悪いほうに考えてしまうタイプ。精神的に脆い部分もあるので、万が一にもそちら側に引っ張られないよう、私が気を付けてあげなきゃな〜と思っています。


一連のニュースを見ていて感じたのは、「慣れって怖いな」ということ。こうも自死の報道が続くと、「またか」とは思わないまでも、かなり冷静に受け止めている自分がいるというか、「あぁ…そうなんですか」という感じになってくる。もちろん自己防衛の意味もあります。長年記者をやってきたことも影響してか、私は「人の気持ちに同調しやすい面がある」と自覚しています。だから、「過剰に反応しないようにしよう」「彼らの気持ちに寄り添い過ぎないようにしよう」と心掛けています。でも、同時に“慣れ”もある。これは非常に怖いことです。


私は無類の旅好きですが、海外デビューはやや遅め。国内旅行を楽しんでいたし、47都道府県制覇を目指していたこともあり、海外には目が向いていなかった。けれど約10年前、親友が外国の殿方と結婚することに。「現地での挙式に出席してほしい」と言われ慌ててパスポートを取り、生まれて初めて日本を出たのでした。


行き先は、東南アジアの某国。見るもの、触れるものが全て新鮮で、「こんな世界があったなんて!」と感動したり驚いたりの連続。ただし、驚きの中にはポジティブでないものも多数ありました。そのうちの一つが、物乞いの存在です(※他に適切な表現が見つからないため、物乞いと記すことをご容赦ください)。


入国前に、親友から「路上に物乞いの人たちがいるけど、絶対にお金をあげちゃダメ。あげたお金は彼らの元には入らない。犯罪組織の資金源として悪用されるだけだ」と聞いていました。その時は、仕事の調整と荷造りに忙しく「は〜い」と聞き流してしまっていたのですが、現地に着いて驚愕。


予約していたホテルまでの道すがら、とある歩道橋の両端に、ほぼ等間隔で人が大勢座っています。「日陰もなくて暑いのに、何で地べたに座ってるんだ?」と思いよく見てみると、多くが何らかの障害を抱えている人たちでした。盲目の方、手足のない方、健常者だけれど極端に痩せ細った子供や御老人。それぞれがお椀のようなものを持って、道行く人に何かを言っている。とても現実とは思えない…。想像を絶する光景に足がすくみ、一歩も動くことが出来ません。すると、スーツケースを手に立ち尽くしている私のところへ、ゆっくり向かってくる人がいました。いえ、“ゆっくりしか向かえない”と言うのが正しいかもしれない。彼女には両脚がないため、腕を使い、這って私のところへ来たのです。私はますます動けなくなりました。


私と20cmくらいの距離になった地点で、彼女が顔を上げます。目が合います。親友に言われていた「心を鬼にして素通りしろ」という言葉が脳裏をよぎりましたが、この時の私には無理でした。私はしゃがんで、なるべく彼女の目線に合わせました。年は恐らく12〜13歳。彼女は笑うでも泣くでもなく、欠けたプラスチックのお椀を差し出すだけです。差し出したその両腕は、いつも這っているせいか傷だらけで血が滲んでいる。私は涙と、寄付したい気持ちを必死で、どうにかこうにか堪えました。犯罪組織に加担するのは嫌だし、一人に寄付したら我も我も…となってしまう。私は差し出されたお椀を手に取って床に置き、首を横に振ります。「お金はあげられない」という意思表示です。彼女はすぐに察し、「分かった」という顔で元来た道を帰ろうとします。けれど腕の傷だけは見過ごすことが出来ず、その時自分がしていたスカーフを彼女の右腕に、ポーチからハンカチを出して左腕に巻き、しっかり結びました。これで少しでも痛みが和らげばいいなと思ったからです。結び終わると、彼女は少しだけ表情を緩めてニコッとしました。あの顔を、私は10年経った今でも覚えています。彼女、どうしているだろうか…。


けれど、本当に恐ろしいのはここからです。初日は泣きそうになるのを必死に堪え、食欲も失せたため、水とフルーツしか口にしませんでした。なのに3日目くらいになると、その状況に慣れたというか、誰かを哀れむ感情にフタをしたというか、特に何も感じないようになっていて、食事も普通にとりました。先の彼女に再会していたら変わっていた可能性もありますが、彼女と会ったのは初日だけ。ずっと同じホテルに滞在していたので、眼下に広がる光景に慣れてしまったのか、感覚が麻痺してしまったのか…。「自分がこんなにも非情な人間だったとは」と思い、だいぶ凹みました。


挙式の翌日、そのことを親友に話したら「それを非情とは言わないよ。ちゃんと感情をコントロール出来たってことでしょ? よく頑張ったじゃん♪    それに、一人一人に感情移入してたら身がもたないし、共倒れになったら意味ないよ。もし本当に助けたいならきちんと稼いで、フェアトレードとかしかるべき財団を通すとか方法はいくらでもある」と返ってきました。な、なるほど! 彼女はアメリカの大学出だからいろんな国の友達がいるし、他にも何ヵ国かで実際に生活して、観光地以外の“闇の部分”も見てきている。「私ももっと世界を知らなくちゃ」と思いました。


海外から帰国する度に「世界もいいけど、やっぱり日本はいいなぁ」と感じます。好きじゃないところもたくさんあるけれど、基本的には大好き。だから、大好きな日本で自殺者が多いのはとても悲しく、辛いです。どうかこれ以上、自らの手で命を絶つ人が増えませんように──。