女風は、用法・用量を守って正しく利用いたしましょう。

既婚ユーザー・ネギブロコの女性用風俗利用日記+日常譚

同じ顔

今クールのドラマは面白い作品が多く、久しぶりに「全話観たい!」と感じるものがたくさんあります。「珈琲いかがでしょう」(テレビ東京)、「最高のオバハン  中島ハルコ」(フジテレビ)、「リコカツ」(TBS)、等々。中でも異彩を放っているのが、「きれいのくに」(NHK)。公式ホームページの番組説明にはこうあります。

 

『誰しもが抱える容姿へのコンプレックスにまつわるジュブナイルSF!

高校生たちが暮らすのは、ほとんどの大人が“同じ顔”をした不条理な国──

恋愛の衝動がほとばしる“青春ダークファンタジー”』

 

正直言って、NHKっぽくない文言だなぁと感じました。「アニメなのかな?」と勘違いしそうになる煽り方だし、この3行では肝心の内容がイマイチ伝わってこない。けれど、「もしやそれが狙いなのかもしれない」とも思います。ドラマ自体がすごく不思議というか、“わけの分からなさ”を多分に含んでいるからです。

 

紹介文に「ジュブナイル」「青春」とあるため、メインターゲットは恐らく若年層なのでしょう。でも私(ちなみにアラフォーです)は、“ほとんどの大人が同じ顔をした国”という設定に強い興味を持ちました。フィクションだけどフィクションじゃないといいますか、「これは見知らぬ国の話でも、遠い未来の話でもないのでは?」と思った。この部分だけ、妙に現実味を伴っているように感じました。

 

私は前職で16年間、エンタメ系雑誌の記者をしていました。よって、天然の美男美女にも、何かしらの手が加わった美男美女にも、間近でお会いする機会が多かった。私は美容整形に賛成でも反対でもないけれど、「自分もしてみたい」とは全然思いません。何をどうしたって、生まれ持った造形美や骨格には敵わないし、メンテナンスを含めて多額の費用と“あらゆるリスク”を背負う覚悟が必要です。何より、根本として「病気や怪我以外で体にメスを入れる」「体に自ら傷を付ける」ことに対してかなりの抵抗感を持っています。同じ理由で、ピアスや刺青にも興味がありません。もし自分がするなら、イヤリングかノンホールピアス、タトゥーシールで十分だという考えです。

 

話が逸れましたね。“同じ顔”までいかなくとも、現在既に“同じような顔”の人はたくさんいます。

その点で記者時代、一番苦労したのは韓流系のボーイズグループ。片言の日本語、揃いの衣装、似たような身長、似たような体型の若い男性10名前後の集団(←お顔は大体のメンバーがお直し済み)を、初対面で見分けるのはまず不可能です。ガールズグループの場合は、顔が似ていても髪の長さやメイク、喋り方など相違点が結構あるので多少見分けやすいのですが、ボーイズグループは本当に難しかった。申し訳ないと思いつつも、一人ひとりのお顔ではなく、立ち位置や座り位置で「後列左端が◯◯さんだな」と判断させてもらっていました。それくらい、“同じような顔”が揃っていた。芸能人だから“売れそうな顔”“万人に好かれそうな顔”に仕上げるのかもしれないけれど、私の目にはちっとも魅力的に映らなかったなぁ。それこそ、「みんなアプリで加工したみたいな、トゥルッとしたお顔」という印象でした。

 

一般社会においても、整形は以前と比べてタブー視されなくなったように感じます。けれど、これから先も当分の間マスク生活が続くだろうし、目元以外は人前に晒す機会がそれほど多くない。そうなると、「顔ってそんなに重要? 整形してまで?」という思いにもなります。美男美女には美男美女の悩み(「周囲はどうせ顔しか見ていない」とか「普通に優しく接しただけで、たちまち相手に惚れられてしまう」とか)があり、そうでない人は「自分が可愛かったら」「もっとカッコよければ」という理想やら願望やらがある。どちらの気持ちも理解出来るけれど、だからといって「ほとんどの人間が同じ顔をした国」へと突き進むのはちょっとなぁ…。

 

私も美しい顔立ちはもちろん好きだし、本能的に目で追ってしまうことだってあります。でも、「そうじゃない顔が嫌いか?」と言われるとそんなことはない(“生理的に受け付けない顔”というのはありますけどね)。お顔の美しさだけで恋に落ちたりとか、友達になったりとかの経験もない。確かに、若いうちはもともと美しい人のほうが有利な場合もあるかもしれません。なれど、生き様や内面がカッコよかったり、肉体やお洒落に磨きをかけたりすれば、いずれあまり関係なくなるような気がします。

ただ、人でも芸術品でも音楽でも風景でも、“感動するしかないほどの圧倒的な美”や、“自然と涙が溢れてしまうような美しい存在”に出会った時──。それはもう、ひれ伏す以外ないというか、ひたすらに称賛したいというか、屈服してしまいたい気にさえなる(笑)。「美しいものが好き」という気持ちには抗えないし、抗いたいとも思わない。


何というか、「ありがとう」と言いたくなるんですよね。こんなに美しい景色を作ってくれて、こんなに美しいメロディーを奏でてくれて、「私の心を思いきり震わせてくれてありがとう!」と。同じように、とんでもなく整った&美しい顔立ちの人に出会った時、「ありがとう」と思います。目に、心に、指先にまで栄養が行き渡っていく実感があり、自然と笑顔に、そして元気になる。昔、ライバル誌の大先輩が「美しい人はね、“美しい”という時点で既にもんのすごく価値があるの。他には絶対代えられないの。だって、いるだけでみ~んなを健康にしてくれるんだから♡」と言っていたけれど、その意味の深さを当時(20代半ば)はあまり分かっていなかった。「はぁ…。そういうもんスか?」という感じでボーッと聞いておりました、相済みません(笑)。

 

さてさて。今後「きれいのくに」がどうなっていくのか、全くもって展開が読めません。ドラマ内に登場する大人は、大多数が男性=稲垣吾郎さん、女性=加藤ローサさんのお顔です。あっちもこっちも、道行くサラリーマンもすれ違うカップルも、ニュースを伝えるキャスター陣でさえも稲垣吾郎さんと加藤ローサさん。“美しいんだけれども確実にホラー映像”という奇妙さ…。そして、夜な夜な突き詰めて考えていたら、「人間の魅力とは一体何か?」というところまで行ってしまいました。


“ほとんどの人が同じ顔”という世界では、相手の何に、どこに惹かれて恋をしたり結婚したりするのだろう。性格、価値観、趣味、センス、才能、学歴、勤務先、財産・資産、家庭環境、家事能力…?  「外見の差が少ない分、よりシビアな目で、まるで採点するかのように見てしまうのでは?」と想像して、何だか空恐ろしくなりました。「みんな同じでつまらない」ということ以上に、“めっちゃギスギスしそう”“毎日息苦しそう”と感じました。今でも十分生きづらいのに、これ以上生きづらくなるのは御免だなぁ。


されど、こうやっていろいろ考えさせてくれたり、“その世界”にどっぷり浸からせてくれたりするドラマは大歓迎です。ホロリとくる作品、スカッとする作品、怖〜い作品、キュンキュンくる作品、笑顔になれる作品と、各種バランスよく、しかも良作が揃っている今クール。大好きな漫画「ましろのおと」(←若き三味線弾きの物語)もTBSにてアニメ化され、本当に本当にありがたい限り(毎話感涙しています)。エンタメ業界は長らく苦境に立たされておりますが、こうして私たちを楽しませてくれて&潤いを与えてくれて感謝・感謝です。自分の出来る範囲でお金、落とし続けます!